行雲流水 花に嵐
「あら、信用ないわね。でも、ふふ、この玉乃ちゃんにそこまで想われてるって思うと、あたしも肚が決まるわ。安心しなよ、あたしは裏切ったりしないから」

 ぎゅ、と玉乃を抱き締めると、片桐はそろりと立ち上がり、窓に近寄った。
 音がしないように引き開けると、少し身を乗り出して通りを見る。

 この部屋は人が一人通れるぐらいの細い路地に面している。
 少し向こうの植え込みの中に、蹲る人影があった。

 それに向かい、片桐は袂に入れていた小さな小石を投げる。
 小石を食らった影が起き上がり、ぱっと駆け去って行った。

「さて玉乃ちゃん。これでこっちの準備は整った。太一を連れて来てくれる?」

 窓を閉めて、片桐が言うと、玉乃はちょっと驚いた顔をした。

「え、今? 皆が寝静まってからじゃないと、梯子動かせないよ」

 まだようやく夕闇が迫る頃だ。
 日も落ち切ってないので、当然見張りも起きている。

「夜のほうが難しいのよ。警戒するからね。それにね、夜の夜中であっても、三階の入り口から出入りするのは危険だわ。見張りの目の前通らないとじゃない」

「じゃあ……」

 気付いたように、玉乃が押し入れを見た。

「そういうこと。あそこからなら、見張りからもっとも遠い。今は皆がやがやしてるだろうから、多少動いても他の者に紛れて目立たないだろ」

 言いつつ片桐は押し入れを開けた。
 中段に足をかけ、押し入れの天井を押し上げる。

「そういえば片桐様、前に押し入れのこと聞いてたね」

「まぁね。この上も、一応探索済みよ」

 天井板を外して、さらに中に入り込む。
 三階の、押し入れ部分。
 どこかを開けなければならない。

「左奥のほう。あそこ、何もないはずだよ」

 下から覗き込みながら、玉乃が言う。
 片桐はさらに奥に入り込み、一番奥の天井---三階の、押し入れの端っこの床にあたる部分に手の平を当てた。
 しばらくそのまま、上の空気を読む。

「……うーん……。人の気配は……ないように思うけど。坊はどの辺にいるのかしらね」

 板を少し剥がすにしても、すぐ上に太一がいたら危ない。
 驚いて騒がれたら終わりだ。
< 137 / 170 >

この作品をシェア

pagetop