行雲流水 花に嵐
「で、やっぱり玉乃ちゃんは、亀松はそんなことする人じゃないって思うの?」

「わからない。だけど、あの太一って子は攫って来たのね?」

「そうね。まぁあの子は拐かしというよりは、人質なんだけど。あたしはあの子を助けるために、ここに入り込んだの」

 じぃ、と片桐を見る玉乃が、傷付いたような顔になった。

「あ、違うのよ。ここに入り込んだ目的はそれなんだけど、玉乃ちゃんのことは、ほんとに大事なの。だからこそ、こんなことまで言うのよ」

「……」

「玉乃ちゃんのことまで手駒としか思ってなかったら、こんなこと言わずに、とにかく太一を連れて来させて、すぐに玉乃ちゃんの口を封じるわよ」

 傍らの刀を掴んで、片桐が言う。

「あたし、そういう男なの」

 にやりと笑う片桐に、玉乃は少し身を引いた。

「だからね、あたしは玉乃ちゃんも奪いたい。太一のことは仕事だからね、お金のために仕方なくだけど、玉乃ちゃんは、あたしの意思よ」

「でも、二人も連れて逃げられないよ……」

 真剣な片桐に、また玉乃は困惑気味になる。
 玉乃の片桐への心も本物だが、昔の無残な死体のこともあり、怖いのだろう。

「それは大丈夫。太一だって、いきなり現れた男に助けてやるとか言われても警戒するでしょ。まして痛めつけられた直後だし」

 そう言いながら、つくづく宗十郎が来ていてよかったと思った。
 痛めつけられていなければ片桐でも連れ出せたかもしれないが、見知らぬ男という括りでは、鶴吉も片桐も同じだ。
 太一は怯えてついて来ないだろう。

「太一の身内が来てるから」

「え、おっかさん?」

「いや、叔父さんよ。陰気だけど、腕は立つし」

「……片桐様のお仲間?」

 こくんと頷く片桐に、玉乃はしばし考えた後、意を決したように顔を上げた。

「わかった。玉乃は片桐様を信じるよ」

「本当? じゃ、あたしと一緒に来てくれるのね?」

「うん。ここから出るよ。もし逃げ切れないってなったり、心変わりしたら、その場で殺して頂戴。心から好いた片桐様の手にかかるなら幸せだよ」

 強い瞳で言う。
 遊女に実はないというが、思い込んだらどこまでも一途だ。

 置屋からの逃亡はそれこそ命懸けであり、まず成功しない。
 故に情死が横行するのだ。

 この瞬間、玉乃は死を覚悟した。
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