行雲流水 花に嵐
「それがなぁ。いや全く、上月の若当主は、旦那と似ても似つかねぇお人なんだねぇ」

 少し要蔵が、にやりと笑って宗十郎を眺めた。

「あんな野郎に似て堪るかよ」

「はは、もっともだ。というのもね、さっきも言ったろ、上月の若当主が亀屋の太夫に入れ込んで、ここぞとばかりにカモにされてるらしいんだな」

 宗十郎の目が胡乱になる。

「旦那と違って、若当主ってのぁよっぽど真面目に生きてきたんだねぇ」

 堅物な者ほど色事や賭け事にどっぷり嵌るのはよくあることである。
 確かにかっちりと型に嵌り、家や社会の規律から外れることを何より恐れる奴だったかな、と、宗十郎はぼんやり思った。
 人の道に外れたようなことは、宗十郎のような弱い者に大しては散々していたが。

「ざまぁねぇやな。しかもそれで親分に泣きついてきたんかい。恥を知らねぇのな」

「いや、泣きついてきたのは親父さんよ」

 かくん、と宗十郎の口が開いた。
 顎が外れんばかりな大口だ。
 まぁまぁ、と要蔵が、宗十郎の前で手をひらひらと振った。

「どうもなぁ、相当雲行きが怪しいんだな。若当主は亀屋から、なかなか帰して貰えなかったようだし。帰ってきたと思ったら、今度は矢のような借金取り立てだ。若当主の解放に散々金策に走り回ったようだし、そもそも無理やりな逗留なわけで。支払い拒否したら、坊が消えたようだぜ」

「何だと? 太一(たいち)か」

 太一は兄の一人息子だ。
 宗十郎の甥にあたる。

「借金の形に取られたんだな」

「そこまでするんかい」

「おうよ。だからちょいとこっちも黙っちゃいられねぇってわけさ」

 表通りにまで出張って風紀を乱すのであれば、治安を守る要蔵としては黙っていられない。
 さらにそんな奴らが、この地を狙っているとなれば、見世ごと潰す必要がある。
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