行雲流水 花に嵐
「だ、だが所詮は一人だ。挟み撃ちすれば上月とて何ほどのものでもない」

「そ、そうじゃな」

 噂に聞く剣鬼・上月 宗十郎(こうづき そうじゅうろう)は恐ろしい存在だが、噂を聞くだけで実際に腕のほどを見たことはない。
 それに、この頼りない灯りの元では、はっきりと上月だと判別できないし、向こうも何より周りが見えないだろう。

 男たちは草むらに潜んでいたので、ある程度は闇に目が慣れている。

「こっちは二人だ。それに上月なら、もっと周りに気を配っているはずだろ。あんな無防備なはずねぇ」

 見る限り、隙があり過ぎるのだ。
 あの男は上月ではない、と決め、男は抜いた匕首を構え直すと、一気に通りに躍り出た。

「なっ何者っ」

 前を歩いていた小者が、慌てて後ずさる。
 要蔵も、顔を強張らせて足を止めた。

「要蔵親分。お命頂戴」

 男の一人が言い、構えた匕首を突き出した。

「ひっ」

 要蔵が喉を鳴らし、辛くも匕首を避ける。
 要蔵が身体を捻って避けたため、突っ込んだ男は後ろの男の懐に飛び込んでしまう。

 ひやりと男の肝が冷えたが、上月と思われる男は、刀に手もかけなかった。
 だが。

「ぐがっ!」

 突っ込んだ男は、いきなり顎に強烈な一撃を食らって昏倒した。
 手から離れた匕首が、くるくると回って宙を舞う。
 後ろの男が、顎を蹴り上げたのだ。
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