行雲流水 花に嵐
「こっ上月かっ」

 飛び出したものの足が止まってしまったもう一人の男が、引き攣ったような声を上げた。
 落ちて来た匕首を受け止め、初めて要蔵の後方にいた男が口を開く。

「だったら何だよ」

 言い様、持っていた匕首を投げつける。
 はっとしたときには、上月の放った匕首は男の喉に突き刺さっていた。

「……見事だ」

 ふぅ、と息をつき、要蔵が倒れた男を覗き込んだ。

「為吉一家の小者だな」

 喉に匕首を生やしてあおむけに倒れた男を見、要蔵は忌々し気に呟いた。
 ここのところ幅を利かせてきた小悪党の手下である。

「まぁこれで、そうそう手出しもせんだろう。一家とはいえ、そう大きな塊じゃないからな」

 言いつつ、上月は初めに昏倒させた男の脇にしゃがみ込んだ。
 気を失っているだけで、まだ息はある。

「どうする?」

 ちらりと、上月は要蔵を見上げた。
 その視線に、要蔵も小者もぞくりとする。

 能面のような無表情に、蛇のような感情のない目。
 華奢ともいえる身体のわりに、近づきがたい雰囲気を纏っているのだ。

「……わざわざ殺すこともあるまい。打ち棄てておこう。悪くすれば、町方はこいつがもう一人を殺ったと思うかもしれんがな」

「ま、それも運だな」

 そう言って、上月は立ち上がった。

「それにしても、さすがだな。見事な腕だ」

 要蔵が、ようやく笑みを浮かべて上月に並んだ。
 要蔵は上月の腕を買って、用心棒として度々使っているのだ。
 上月はちらりと要蔵を見ただけで、ぶらぶら歩きだす。

「大したことはしていない」

 相変わらずの能面で、上月は頭上に僅かに顔を出している月を見上げた。
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