行雲流水 花に嵐
「下で上月様をお見かけしても、声がかからないと悲しくなります。誰か、他の子を呼ぶんじゃないかって」

「同じ店で女子を変えたりせんよ。別にお前に不満もない」

 色町では、女子を変えるのはご法度だ。
 そんなことをすれば、女たちに吊し上げられた上、町全体から閉め出しを食らう。

 だがそれは表の正規見世の話だ。
 裏ではもちろん、このような中町でも表の常識はない。

 だがやはり、このように小さな店では女子の数も表のように大人数ではない。
 一軒に二、三人のところで女子を変えれば、たちまちバレてしまう。

 決まりはないとはいえ、女子同士、良い気持ちではないだろう。
 男の良心にかかっているといえばそうだが、滅多なことでは同じ店で他の女子など抱かないのが普通だ。

「上月様、明日の朝まで一緒にいられる?」

 おすずが宗十郎の胸に寄り添いながら言う。

「朝まではどうかな。まぁ……目が覚めるまで、かな」

「それならお酒にお薬でも盛ってしまいたい」

「それをやっちゃ、ここも裏見世に落ちるぜ」

「だってそうでもしないと、上月様、すずのものにならないもの」

 着物の合わせから宗十郎の胸に手を這わせて甘えるおすずが、上目遣いで言う。
 宋十郎は杯を置くと、おすずを抱き寄せ、口移しで酒を飲ませた。

「おすずよ。ちょいと聞きてぇんだがな」

 おすずの着物の合わせから手を滑り込ませながら、宋十郎が囁いた。
 おすずの口の端からこぼれた酒を舐める。
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