行雲流水 花に嵐
 宗十郎は上月家の次男である。
 が、正妻の子ではない。
 上月の当主である仙右衛門(せんえもん)が、座敷女郎に産ませた子である。

 ために、母親は上月の家に入ることもなく、下町の長屋で宗十郎を産み落とした。
 上月家からの合力もなく、母子二人で細々と暮らしていたのだが、正妻の子である長男の身体が弱く、先を案じた仙右衛門が、宗十郎を引き取った。
 だが正妻は卑しい女子から生まれた子として、宗十郎を嫌悪し忌み嫌う。

 そのうち月日が流れ、長男の身体も丈夫になった。
 しかしだからといって、父親としては今更一旦引き取った宗十郎を追い出すわけにもいかない。

 結局宗十郎は、そのまま上月の家に居着いたのだが、扱いは長男の使う下男だった。
 どこの馬の骨ともわからぬ女子の産んだ子に家督を奪われそうになったという気持ちは、正妻も長男も同じだったようだ。

 二人とも、宗十郎を徹底的に苛め抜いた。
 長男は学問の手習いに行くときも剣術の道場に通うときも、宗十郎を伴った。
 それは一緒に学ばそうとしたのではない。

 まだ小さい宗十郎に荷物を持たせ、学問所や道場に入ると、宗十郎は外で待たせる。
 雨の日であっても雪の日であってもだ。
 当然傘など持たせない。

 そうやって己の立場をわからせようとしていた長男の仙太郎(せんたろう)だったが、宗十郎はそのような立場を諾々と受け入れていたわけではなかった。
 学問所の外では耳を澄まして内容を聞きかじり、道場ではこれまた外から見様見真似で型を学んだ。

 そうこうするうちに、剣のほうは、きちんと習っている兄にも劣らぬ腕を身に付けるに至ったのだ。
< 4 / 170 >

この作品をシェア

pagetop