行雲流水 花に嵐
 亀屋に出向いた片桐は、鶴吉に出迎えられた。

「何よ、竹は? ていうか、何か荒れてない?」

「へぇ、竹の奴ぁ、ここんところ、ちょいと。とりあえず、寛いでくだせぇ」

 小太りの身体を縮めるようにしながら、竹次の相棒の鶴吉が片桐を案内する。

「何かあったの? 人を引っ張り込んで、後は知らん顔なんて随分じゃない? あたし、礼儀欠く奴ぁ嫌いだわぁ」

 さりげなく刀を掴んで見せると、あからさまに鶴吉の顔が強張った。
 ぶんぶんと、顔の前で両手を振る。

「ご、誤解しねぇでくだせぇ。竹の奴ぁ、ほんとにちょいと厄介事を背負ってますんで。何も旦那を放ったらかしてるわけじゃねぇ」

「厄介事って何よ? そういうことのために、あたしを雇い入れたんじゃないのぉ?」

「い、いや、旦那にはやっぱり、つまらねぇことは頼めねぇんで」

 かちん、かちんと鯉口を鳴らす片桐にひやひやしつつ、鶴吉は必死で片桐を宥めながら奥の座敷に誘う。
 その道中、両側にある部屋を探ってみるが、そもそも襖が開いている部屋などないし、中の様子など窺い知れない。

「てっきり面白い喧嘩が待ってると思ったのにさぁ。こんな退屈なんじゃ、あたし、鞍替えしちゃうわよ?」

「そ、それは困る。旦那、何とか機嫌直してくだせぇ。今、酒の用意をしますよって」

 とりあえず片桐を座敷に落ち着け、鶴吉はそそくさと出ていく。
 一人になるなり片桐は、探せる範囲でおすずを探した。

---ま、やっぱりこんなすぐにわかるようなところには隠さないわよね---

 探せる範囲など、この座敷内と押し入れ、窓を開けた外ぐらいだ。
 ちなみに宗十郎が外から窺ったところには窓などなかったが、こういう上客用の部屋にはある。
 おそらく密談にも使うのだろう。

 当然そういう席には亀松も顔を出すだろうし、公に出来ない話し合いの場には思わぬ大物も顔を出す。
 そういう者のために、いざというときの逃げ道として、窓を設けているのだ。
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