行雲流水 花に嵐
---そうか、廊下では斬り合えないけど、部屋の中に入れば可能だわ。まぁそれでもやっぱり刀は扱いづらいでしょうけどね---

 刀を振るうには、結構な範囲が必要だ。
 刀というのは意外と長い。
 また、十分に振るえないとなると、威力も半減する。

 一通り座敷内を探した片桐が再び腰を落ち着けた頃、忙しい足音と共に襖が開いた。

「旦那、すまねぇ」

 竹次が頭を下げつつ入ってくる。
 その後から、膳を持った鶴吉が続いた。

「久しぶりねぇ、竹ちゃん。何よ、自分だけ楽しいことしてたみたいじゃない?」

 腰から引き抜いた刀の鞘で、ちょいと竹次の頬に付いた傷をつつく。

「い、いや何。旦那に言うほどのもんでもねぇんで」

 視線を彷徨わせながら、竹次が言う。
 ぼりぼりと頭を掻く腕にも、引っ掻き傷のような痕が見えた。

「何あんた。傷だらけじゃない。やっぱりあたしに内緒で出入りでもしてたんでしょ」

 びし、と腕の傷を打つ。
 う、と竹次が顔をしかめた。

「ちょ、ちょいと元気の過ぎる雌猫の相手をしてただけなんで」

「はぁん? そういうことかい」

 にやりと笑い、片桐は持っていた刀を降ろした。
 聞かん気の強い女子の相手をしていた、ということだ。

 単なる遊び人の言うことであれば、大したことのない痴話喧嘩であろうが、竹次はそんな甘い男ではない。
 それに傷だって、痴話喧嘩の末の傷にしては酷い。
 本気で抵抗し、夢中で引っ掻いたような傷跡だ。
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