行雲流水 花に嵐
 客分として亀屋に出入りするようになっても、勝次にはなかなか会えなかったのだ。
 もっともこの見世を仕切っているのは勝次なので、知らない者からすると勝次が親玉と思うだろう。

「何、旦那に仕事を依頼すんのぁ、こいつらじゃ心許ねぇだろ」

 言いつつ、勝次は片桐の前に腰を下ろすと、懐から袱紗を取り出した。
 依頼料のようだ。

「牢人を一人、斬って貰いてぇのよ」

 底光りのする目で片桐を見つめながら言う。

「牢人なの? あたしに頼むってことは、腕が立つってことかしら?」

「おそらくな。どうも、この見世を探ってる風があるようだ。お上の手の者ではなかろうが、ここを探るってことぁ単なる無頼牢人じゃあるめぇ」

「えっと、それってどういう奴よ?」

「何日か前に、竹が見てんでぇ。上背のある陰気な感じの牢人が、何気ない風に亀屋を見上げてたってな」

「陰気な感じの牢人ねぇ」

---宗ちゃん……。何堂々と見世の前まで来てんのよ---

 心の中で、片桐は頭を抱えた。

「どうした、旦那。荷が重いか?」

 ちょっと揶揄するように、勝次が言う。

「ていうか、どこの誰よ。人が確定しないと斬りようがないわ」

「それは今探らせている。うちを探ってるなら、近いうちにまた動きがあるだろう。そう待たせることはねぇよ」

「そう。じゃ、楽しみに待ってるわ。ところで」

 出された酒に口を付けながら、片桐は勝次を見た。

「毎回酒だけじゃ、飽きるわよ。あたしだって欲望ってものがあるんだからね」

「へ?」

「ここは廓でしょ。相応のもてなしってものがあってもいいんじゃなぁい?」

「お、おお。それもそうだ。何、旦那はてっきり、そっちのことにゃ興味がないものと思ってたぜ」

 一瞬驚いた顔をした勝次だが、すぐに下卑た笑いを浮かべて腰を浮かす。
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