行雲流水 花に嵐
「凄まじいわね。あんたでも手を焼くの」

 ここにはおすずだけでなく、攫われてきた女子が働かされているという。
 竹次に傷をつけたのがおすずとは限らないのだ。
 竹次は、へへ、と鼻の下を擦った。

「ちょいと前までは大人しい奴でしたがね。これがまた、とんでもねぇ曲者で。ま、連日吊し上げてやりましたから、もうそう抵抗もしないでしょ」

「ま。女の子に酷いことしちゃ駄目よぉ」

「俺は女の苦しむ顔が好きなんでさぁ」

 にやりと笑う。
 あ~あ、と片桐は、心の中でため息をついた。

---危ない奴だわ。相手を痛めつけて快楽を得るような奴、玄人でも死人が出るのに、素人なんか耐えられないでしょう---

 竹次からしたら、おすずのしくじりはしてやったりかもしれない。
 口を割らすために拷問しつつ抱けるのだ。
 気に入りのおすず相手であれば、欲望も燃え上がるだろう。

---もう宗ちゃん。のんびり構えてるうちに、おすずちゃんの身体が壊れちゃうわよ---

 ぶつぶつ思いながら、片桐は杯を取り上げた。
 すかさず竹次が酒を注ぐ。

「それはそうと、旦那。そろそろ旦那に出張って貰いてぇんで」

 酒を注ぎながら、不意に竹次が上目遣いで片桐に言った。

「ちょいと気になる奴がいるんでね。そいつを斬って貰いてぇんで」

「何? いきなり」

 面白そうに目を光らせて、片桐が竹次を見る。
 その反応に、にやりと口角を上げ、竹次は控えていた鶴吉に合図した。
 すぐに鶴吉が去り、程なく勝次を連れて来た。

「あらぁ、こりゃまた大層なお方からの依頼ねぇ」

 大袈裟に片桐が驚いて見せる。
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