行雲流水 花に嵐
「酷ぇ有り様だなぁ」

 とりあえず堀川の塒におすずを連れて行った宗十郎は、布団に寝かせたおすずに、改めて目を落として呟いた。
 途中で落ち合った駒吉が、要蔵のところから単やサラシを持ってきた。
 一通り手当てをして、やっと落ち着いたところだが。

「けど旦那。亀屋にゃ、今のところ目立った動きはねぇですぜ」

 おすずを奪還して二刻ほど。
 もう日もすっかり落ちている。
 駒吉はこちらに来る前に、亀屋の様子を見て来たらしい。

「ま、竹次は出来るだけ、てめぇ一人で何とかしようとするだろうな」

「人質を逃がしちまったからですかい」

 軽く、宗十郎は頷いた。

「だがそれも、明日、明後日ぐらいまでだろう。一人手下を斬られてるんだから、すぐに勝次にバレるさ。大きく動くのは、それからだな」

 そうなると、片桐も動くはずだ。

「奴らの前で片桐をやり合うのはまずいな。片桐一人で来てくれりゃいいが、そうもいかんだろう。俺が囮になって、先にどいつか一人とっ捕まえようと思う。そのために、わざわざ竹次に俺の姿を見せたのだし」

「なるほど。捕えて口を割らすってわけですね」

「そのためには、それこそ竹次が躍起になってる今が好機だ。あいつの手下なら大したことはない」

「承知しやした。じゃあ親分にも伝えておきますよ。明日の朝、文吉兄ぃと来まさぁ」

 拳を握り、駒吉は張り切って出て行った。

 さて、と宗十郎はおすずを覗き込んだ。
 腫れた頬を冷やしていた布を取ると、おすずが目を開けた。
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