行雲流水 花に嵐
「旦那っ。起きてくだせぇ」

 慌てたような声に、宗十郎は目を開けた。
 明るい日が座敷に差し込んでいる。
 そういや塒を変えたんだったな、と思いつつ目を動かすと、すぐ横におすずが寝ている。

「……ああ、昨夜あのまま寝ちまったのか」

 のろのろと上体を起こす。
 ふわぁ、と伸びをして、ようやく困ったような顔でこちらを見ている文吉に目をやった。

「おお、すまんな」

「い、いえ。お邪魔しちまって」

 そう言われて、あ、と宗十郎はもう一度自分の横を見た。

「いやいや、いくら何でもこんな状態のおすずを抱くほど鬼畜じゃねぇよ」

「あ、びっくりした」

 文吉の後ろから、駒吉が、ほ、と息をつきながら身を乗り出す。
 そして持っていた風呂敷を差し出した。

「握り飯と、そっちの娘さんの着替え」

「ありがてぇ」

 おすずの枕元に風呂敷を置き、宗十郎は握り飯を頬張った。

「今日は大っぴらに竹次を探るぜ。つっても勝次とかに見つかっちゃややこしいからな。おすずを監禁してた仕舞屋辺りを探るか」

「そうですね。上手く行けば、竹次の塒がわかるかもしれません」

「やっぱり捕まえるなら竹次だな」

 それより下になると、親玉である亀松の情報などほぼ知らないだろう。

「昨日片桐の旦那が来てやしたんで、竹次の野郎を捕ること、話をしておきました」

「よし、行こう」

 握り飯を食い終え、早速宗十郎は刀を手に立ち上がった。

「あ、もうちょっとしたら、お楽(らく)姐さんが来てくれる手筈になってます」

 駒吉が、思い出したように言った。
 お楽は要蔵の贔屓にしている芸者だ。
 二十四と歳は行っているが、凛とした美人である。

「そうか。お楽姐なら安心だ」

 助け出されたとはいえ、目覚めたときに一人だと寂しかろう。
 はたして目が覚める前までにお楽が来てくれるかはわからないが、宗十郎らが帰ってくるまで一人にすることはない。
 女性というのも大きい。

 安心し、宗十郎はおすずを起こさないよう、静かに仕舞屋を出た。
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