行雲流水 花に嵐
 その少し前、亀屋の二階座敷では、不機嫌顔の片桐が、窓に寄りかかっていた。
 前には竹次が、小さくなっている。

「だーかーら。何であたしがあんたに協力しないといけないのよ」

 ぷかぁ、と紫煙を吐き出し、片桐が煙管をくるくる回す。

「い、いやその。早く決着つけねぇとヤバいんだって」

「知ったことじゃないわよぉ~。お気に入りの女子を逃がしちゃったのは、竹ちゃんの不始末でしょ~。あたしに紹介もしないでさぁ。一人で楽しんだ罰よ~」

 煙管を咥えて、つーんとそっぽを向く。
 竹次が、少しだけ膝でいざり寄った。

「そんなこと言わねぇで。勝次親分に女逃がしたことが知れちゃ、あっしの首がヤバい」

「ちょっとはシメられたほうがいいわ。あたし、女の子に酷いことする奴は嫌いだし」

「旦那ぁ、頼むよ。すずの奴を連れ去ったのぁ、例の牢人なんですぜ。奴を斬ることは、勝次親分からも依頼されてたことでしょ」

「そうだけど。あんたの尻拭いはご免だっての。ちょっとは自分で努力しなさいよ。端からあたし頼ってんじゃないわ」

 ぐ、と竹次が言葉を呑み込む。
 ふー、と紫煙を吐き出し、片桐は少し面白そうに口角を上げた。

「それよりもあんた、その女子に見世のこと喋ってんじゃないの? あの子が初めっから素直に喋ってたら脅す必要もないけど、頑として口を割らなかったんでしょ? あんたのことよ、亀屋の見世はここだけじゃない、もっと酷いところがある、とか。そこに入れてやるとか言ったんじゃないのぉ?」

「そ、そんなことぁ……」

 竹次の視線が揺れる。
 激昂したら何をするかわからないこの男は、自分が口走ったこともあまり覚えていないだろう。
 言ってなくても言ったかもしれない、と思わせればいいのだ。

---それに、いかにも言ってそうだし---

 思いつくあらゆる脅し文句を口にしたはずだ。
 あれだけ痛めつけたのだから。

「そんなお見世があるって知った女子が逃げ出した。どこに行ったかわからない子を追うよりも、先に特別座敷なる見世を何とかするほうがいいんじゃない?」

「そ、それは……」

「牢人を斬るのはそれからでも遅くないんじゃない? 万が一牢人が町方の手先だったとしても、座敷を移動しちゃえば向こうさんは探しようがないでしょ。踏み込まれたところで、もぬけの殻だし」

「けど座敷を何とかするにゃ、大親分にまで話が行っちまう」

「捕まって打ち首獄門よりいいんじゃない? 逃がしちゃったことはもう済んだことだし」

 うう、と竹次が頭を抱えて唸る。
 苦悶する竹次を、よしよし、と慰めつつ、片桐はぱんぱん、と手を叩いた。
 すぐに手下の一人が飛んでくる。
 竹次の顔が強張った。

「大丈夫よぉ。竹ちゃんには、あたしがついてるじゃない」

 そう言って、片桐は手下に勝次を呼ぶよう伝えた。
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