行雲流水 花に嵐
「何だってぇ?」

 竹次から話を聞いた途端、勝次は拳を握りしめて中腰になった。
 ひぃ、と竹次が尻で後ずさる。

「あの女を逃がしただと?」

「す、すみません! で、でも犯人はわかってるんで! あの牢人でさぁ!!」

「馬っ鹿野郎!! 奴が町方だったらどうする! そのうちお前がお縄にならぁ。お前、町方の責めに耐えられるか? お前がとっ捕まる前に、俺がお前の口を封じたほうが確実だな」

 ぎらり、と勝次が匕首を抜く。
 竹次は歯の根も合わないほど震え、部屋の隅まで後退した。

「まぁまぁ。竹ちゃんが捕まったら、あっという間にここのこと喋るでしょうけどねぇ。でも竹ちゃんを殺ったところで、同じじゃない? 竹ちゃん、色町じゃちょっと有名だし」

 片桐のとりなしに、勝次は浮かせていた尻を沈めた。
 だが匕首は抜いたままだ。

「どういうこった?」

「竹ちゃんは、あたしにとっちゃ三下だけどさ、普段色町では派手に喧嘩とかしてたじゃない。亀屋の力を表に知らしめるのに、一役買ってたでしょ? 色町には、竹ちゃんが亀屋の人間だって知ってる人多いわよ。そんな子のところから女子が救い出されて、すぐに竹ちゃんの死体が見つかってみなさいな。ここの誰かが殺ったってすぐわかるわよ」

 うむ、と低く唸って、勝次は頷いた。

「旦那の言う通りだな。こいつを殺るのは得策じゃねぇ」
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