行雲流水 花に嵐
「そうねぇ。でも勝次が言うには、ここには女子がいるそうじゃない。色町で使えない訳ありな娘は、こっちで使ってるんじゃないの?」

 片桐が言うと、亀松は目尻を下げたまま、ふふ、と笑った。

「こちらの座敷は、そういった特別なお客様用の座敷にもなりましてな。なかなか身分の高いお人というのは、正規の遊女よりも素人娘を好むもので。まだ擦れてない女子を調達するのぁ、なかなか骨の折れるものでしてなぁ」

 糸のような目の奥が、若干鋭く光った。
 言葉遣いにも、本来の亀松の姿が垣間見える。

「旦那は『拐かしの松』ってぇ名を聞いたこと、ありませんかね」

 自分の猪口に注いだ酒を口に運びながら、亀松が言った。

「聞いたことあるわよ。江戸で随分娘を攫ったっていう人攫いよね。けど十年ほど前の話よ? 場所もこことは随分離れてるし。それに奴が江戸を荒らしまわったのは、ほんの二年ほどだったし、当時攫われたのは小さな女子ばっかりだったはずよ」

「旦那。当時五つ六つの子供は、十年経てば立派な女子でさぁ」

 そういうことか、と片桐は心の中で手を打った。
 亀松は十数年前、江戸で幼女を中心に拐かしをし、その子らをここ伏見に連れて来た。

 遠く離れた土地に連れ去ってしまえば子供など帰れない。
 そのままその子らに、ここで客の相手をさせているのだ。

「ほ~。随分手の込んだお店なのね」

「はは。わしは金さえ入ればいいのよ。女を使えばてめぇで働くことなく金が手に入る。色町の見世は荒っぽい商売してるがな、短期間で金を作るにゃいい見世だ。シマを広げるのにも金が要るしよ」

 人の良い商家の旦那の顔は鳴りを潜め、今やすっかりヤクザの顔だ。
 これが本来の姿だろう。

「ここはいい隠れ蓑だったのによ、どうやら手下がドジ踏みやがった。今朝いきなり勝次が女どもを移すとか言いやがる」

「ああ、そうね。そうそう、あたしゃそのために来たのよ」

 大体の事情はわかった。
 後は太一を見つけることが重要だ。

 そのとき、親分、と声がかかり、襖がすらりと開いた。
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