キミノテノヒラノウエ。
私は翌日、淡いブルーの膝丈のワンピースに、黒のジャケットを羽織り、
いつもは結んでいる肩までの茶色に染めた髪を緩く巻き、
155センチの背は7センチヒールの黒いパンプスで誤魔化し、
まあ、いつまでも童顔の顔は少しだけ、お化粧を施し、
就職祝いに母に貰った、ファッションブランドの黒いバッグを持って
薫ちゃんとの待ち合わせ場所に向かった。

精一杯のおめかし。

コーヒーショップは混んでいたから、
立ち飲み席でカフェオレを飲みながらボンヤリしていると、
上品なスーツ姿の背の高い男の人がコーヒーカップを持って横にたった。
やけに近い。
ちょっと顔を見ると、結構イケメン。
切れ長の茶色い瞳と目が合い、慌てて下を向くと、

「なんで、目をそらす?」
と聞き覚えのある機嫌の悪い声が上から降って来た。

「か、薫ちゃん?!」ともう一度見直すと、
確かに薫ちゃんだ。

「め、メガネは?」

「仕事に邪魔だから、コンタクトにした。
いいオトコになって驚いたか?」とクッと喉を鳴らす。

…確かにいいオトコになったかな?
垢抜けたスーツに
少しウェーブをかけて清潔に整えられた黒髪。
元から背は高かったけど、
…印象が違うのは、ガッシリした感じだから?

「か、薫ちゃん、太った?」

「鍛えただけだぞ。外科医は体力勝負だからな。
太ったとか、言い方が悪すぎるだろ」と顔をしかめる。

その顔は知っている。
私にお小言を言う時の顔。

本当に薫ちゃんだ。

「ちっとも、わからなかった。」と言うと、

「俺はチビスケがどんな格好していても、直ぐにわかるよ。」と私の瞳を覗く。

「なんで?」

「何でだとおもう?」

「質問に質問で返すのはヤメテクダサイ。」と睨むと

「じゃ、宿題にしておこう。」とクッと喉で笑う。

あいかわらず、意地悪だ。





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