イケメンなんか大嫌い

「──では、今後ともどうぞよろしくお願い致します」

特に滞りなく打ち合わせは終了し、資料を片付けながら気が抜けたのか、わたしの意識は別の所へ向かおうとしていた。
時刻は調度正午を迎えようという頃合いで、昼食はどうするのだろうと考えていると西田さんが提案した。

「どうです、うちの社食で食べて行かれませんか。美味しいって評判なんですよ」
「では、折角なのでそうさせて貰いましょうかね」

小会議室を出て廊下を進みながら、前園係長が賛同している間に鐘が鳴った。
外出の予定がある瀬尾さんと別れ、エレベーターホールに到着した頃には、既に多数の社員の人達が行き来し始めている。

食堂が近付くにつれ、何やら薄らと胸騒ぎを感じ、服の上から掌を当てた。
昼休み、食堂……もしかして

もしかしたら


数メートル先の角から出て来た人が目に入ると、心臓が跳ね上がった。

目を離せずに直視していると、わたしに気が付き視線を合わせた。

──どうしよう。
何か声掛けるべき……

久しぶりに見るその顔に、会えたと弾む心とうろたえる心が、相反して渦巻く。
仏頂面から感情は読めずに思いあぐねていると、後ろから綺麗なショートカットの女性が姿を現し、急かした。

「どうしたの市川くん。早く行かないと入れなくなっちゃう!」

すると合わさっていた冷淡な瞳が、わたしを流し見つつ背を向けた。

「すいません。店どの辺でしたっけ?」
「大通り越えて行かないとだからね~……」

彼らは食堂へは向かわずに、階段の方へと消えて行った。

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