いつも、雨
「……エアコン緩めるか。」

要人がクーラーの設定温度を上げて、風量を減らすボタンを押す。

領子はその手に自分の手を重ねた。

白い手が、小刻みに震えていた。


「わたくしは、竹原と結婚することは、できないの?」

領子の言葉に、要人は顔を歪めた。


質問の仕方が気に入らない。

どうして、否定的に聞くんだ。


「……できないと思ってたら、できひんのちゃう?」

ついつい、気持ちがねじくれて、そんな言い方をしてしまった。



領子の瞳から涙がこぼれ落ちる。


要人は親指の腹でぐいっと涙を払って……ついでに、領子の手も払い除けた。

庭の向こうの部屋から出てきた恭風が、廻り縁をドタドタと歩き出した。

領子は慌ててキチッと座りなおし、勉強するふりをした。



「……お母さまが、お許しにならないわ……。」

絶望的な声でつぶやいた。


「だったら、奥さまの言う通りに、橘家に嫁げばいい。……領子さまの、したいように、どうぞ。」

淡々と、要人は言った。


冷たい……。

そんな、他人事みたいな言い方してほしくない。

わたくしが、どれだけつらいか……竹原……わからないの?



領子の恨みがましい視線が要人に突き刺さる。


要人は、ため息をついた。

「……同じ質問を何度も何度もするのも、けっこう疲れるんですよ。……それで、領子さまは、どうしたいんですか?俺に、どうして欲しいんですか?」


何度も繰り返してきた質問を、要人は辛抱強く口にした。


領子は涙をホロホロとこぼした。

「意地悪。嫌い。大嫌い。……いいえ、嘘よ。大好き。好き過ぎて、苦しいの。いっそ、亡くなったのがお父さまじゃなくて、竹原だったらよかったのに……。」


ヒクッと、要人の片頬が引きつった。


我儘な乙女のたわごととは言え、今のはけっこう……堪えた。



「俺に死ね、と?……そうすれば、あきらめがつくと、本気で思ってらっしゃるんですか?」



さすがに言い過ぎたと気づいたのだろう。

領子は口元を両手で覆って、目を見開いていた。
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