いつも、雨
「竹原……。わたくしは……わたくしは……こんなに……好きなのに……どうして……。」

歎きの言葉さえも、ただ、虚しい。


要人は、敢えて笑顔を貼り付けて、ゆっくり、噛んで含めるように言った。

「俺も、領子さまを愛していますよ。ですから、領子さまのお幸せを、心から願っています。」


領子は両手で顔を覆った。



要人は終始、笑顔を作り、領子に問題を解くよう促した。


最初は泣いていた領子も……そのうち、諦めたらしい。

無言でシャーペンを動かした。



長い長い時間だった。


途中で、ねえやがアイスティーを持ってきてくれた。

「領子さま。大学受験されるんですってねえ。竹原さん、責任重大ですね。」

既に天花寺夫人から聞いたらしく、ねえやが要人を少しからかった。


「ねえや。まだわたくし、何も決めてなくってよ。」

領子は、慌ててそう言った。

ねえやは口元を抑えて、ほほっとほほ笑んで誤魔化そうとした。


要人は、ねえやに向かって言った。

「キタさん、大丈夫ですよ。領子さまは、もう勉強のやりかたを覚えられましたから。独りでも、ちゃんとご希望の大学に合格されますよ。」



ひとり?

ひとりって、どういう意味?

竹原は?

もう、わたくしのお勉強を見てくださらないの?


……まさか……この家を出て行くの?

嫌っ!


うつむいてぷるぷる震えている領子を、要人は見ないふりをした。



ねえやが出て行っても、領子は顔を上げなかった。

要人はアイスティーを飲み干しても、2時間が経過しても……領子は数字をぼんやりと見ていた。




「領子さま。時間です。終わり、ですよ。」

いつまでたっても固まったままの領子に、要人はそう言った。



勉強だけじゃない。

2人の恋人ごっこも、終わり。

……そう宣言されたの?



領子は力なく立ち上がった。


要人は領子を見ようともしない。


……苦しい。

息苦しい。

ここから逃げ出したいのに……離れたくない。


そうよ。

今、出て行ったら、本当に終わってしまうんだわ。


領子は勇気を振り絞って、要人のほうへと足を進めた。


「竹原。わたくしは、」

「奥さまが、こちらを見てらっしゃいますよ。」

要人の冷たい声。


領子は歩みを止め、言葉を止め……溢れ出す想いを止めた。
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