いつも、雨
朝から食欲旺盛な恭風が、領子のお膳も引き寄せていた。

要人の視線に気づき、恭風は言い訳するように言った。

「……領子、食べられはらへんらしいわ。もったいないやろ?」


「まあ、大変。……ちょっとお身体のお具合をうかがって参りますわ。」

ねえやは慌てて立ち上がり、挨拶もそこそこに廊下へ出た。


「いや。ただのヘンネショやわ……って、行ってしもた。ねえやは、領子に甘いなあ。」

「ヘンネショって。馬鹿なことをおっしゃらないで。」

母親に窘められ、恭風は肩をすくめると、領子の膳に手を伸ばした。




……俺の顔を見たくない、ってことやろなあ。

やっぱり、気まずいよな……。

どんな状況になっても、ずっと領子さまと、天花寺家を支える心積もりはできていた。

しかし、今は、これ以上領子さまを刺激しないように、距離を取るべき時なのかもしれない。

長期的に、お支えするために……。


大丈夫ですよ。

領子さま。

……目の前から、消えてさしあげますよ。




夕べ、死を乞われて……要人もまた「ヘンネショ」を起こしていたのかもしれない。




要人はいつも通り、落ち着いた声で天花寺夫人に向かって言った。

「ご婚約が整いましたお嬢さまと同じ家に赤の他人の男が住まっているのは、あまりにも外聞が悪いので、私はお屋敷を出ようと思います。これまで大変お世話になりました。」

「竹原!?」

驚く恭風と対照的に、天花寺夫人は少しホッとしたようにうなずいた。

「そう……。そうですわね。ええ。……わたくしも、そのほうがいいと思いますわ。了簡してくださって、ありがとう。」

夫人の反応が、如実に物語っていた。


……やはり、領子の気持ちは……バレバレだったのだろう。

要人が必要以上にクールに振る舞っているので、2人の関係がバレたわけではないと思う。

まあ、バレていたら、とっくに追い出されていたはずだ。

母親として、領子の要人への想いを知り、ずっとやきもきしてきたのではないだろうか。

結納を急ぐのも、金銭的に橘家の援助を受けられたら、要人が月々納める下宿代をアテにしなくてよくなるから……そんな理由もあったのかもしれない。

もちろん、領子が要人へ猪突猛進するのを防ぐため……というのが一番だろうが。

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