いつも、雨
「そんなとこで、じぃっとしてたら、蚊ぁにかまれまっせ。」


どのぐらい座っていたのか、自分でもよくわからない。

けど、兄の恭風の言う通り、領子の脚には赤い小さな膨らみが2ヶ所できていた。


「……やだ。いつの間に……。」

領子は慌てて、脚を上げた。


「掻かんときや。ねえやに言うて、薬もろてきたげるわ。」

やけに優しい兄の背中を、領子はぼんやりと眺めた。


……お兄さまも……お元気ないみたい。

竹原が出て行って淋しいのは、お兄さまも同じなのね……。


領子は、ゴクリと息を飲み……それから、尋ねてみた。

「お兄さま。……竹原が出て行ったと聞きました。……行き先はご存じですか?」

母に聞くよりは、たやすく情報を得ることができるはずだ。

領子の目算に、恭風は苦笑した。


……まったくこの妹は……。

誰のために、竹原が出て行ったと思てるねん。


「……聞いてどうするんや?」

兄の質問に、領子はたじろいだ。

「どうって……だって、勉強を見てもらわないと……。」

「中3の勉強やったら、わしが見たるわ。持って来(き)ぃ。」

恭風はそう言って、行ってしまった。


そう簡単にはいかないみたいね。

……でも、お兄さまが竹原の居場所をご存じなのは確かみたい。


領子は、手がかりを得たことで、少し安堵した。


恭風はすぐに戻ってきた。

虫刺されの薬を塗りながら、領子はふたたび問うた。

「竹原は、出て行っただけじゃなく、もう、わたくしの家庭教師にも来てくれませんの?」

「……まあ、そうやろうなあ。」

遠い目をした恭風に、領子は口をつぐんだ。


……これじゃ、埒があかないわ。

お兄さまは誤魔化されることだけは、上手いのよね……。

どうすればいいかしら……。


しばしうつむいて悩んでいると……なんだか、ムカムカしてきた。


そう言えば、空腹に紅茶を飲んだから……さっき、少し胃が痛んだような気がしたのよね。

慌ててケーキをお腹に入れたんだけど、却って逆効果だったのかしら。

気持ち悪い……。

吐きそう……。


こみ上げてきた嘔吐感に、口を押さえた。


「え……。領子?まさか、あんた……ややこが出来たんか!?」

自分の想像に驚いて、恭風の声が大きくなった。


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