いつも、雨
「まあ、井上のおっちゃんが健在なときはええんやけど、病気したり、撃たれたり、逮捕されたり、分裂したり、他の組と抗争したり、裏切られたり、斬られたり……波乱万丈やん?ヤクザって。その都度、警察も入るし、機密保持が大変らしくてなあ……組とは無関係の親父がいつもイロイロ預かってたらしいわ。あ。あれでも親父、弁護士やってん。」

「弁護士!?……え?法廷に立ってはったんですか!?」

さすがにびっくりして、要人はそう尋ねた。


稲毛は顔をしかめた。

「昔はな。とっくに辞めはったわ。さすがに、何で弁護士辞めてホームレスなんかしてるんか、昔はわけわからんかったわ。……まあ、今ならわかるけど。」

「……そのようですね。では、貸倉庫の中身も亡くなられた4代目の井上組長の関係のものですか?」

「うん。跡目がなかなか決まらんくて……親組織ぶって、神戸の組が自分とこの息のかかったんを5代目に立てようと、横やり入れたりなあ。それで、このところ、ずーっとあっちゃこっちゃでドンパチやってはるねんわ。でも、夕べ、とうとう、狙撃で亡くならはったそうやわ。5代目候補やった荒井さん。残念やけど、仕方ないなあ。」

そう言って、稲毛は両手を合わせた。


「……初耳です。」

狙撃という言葉に、急に重みが加わった。


要人は、無意識に周囲を見た。


「そやろ。まだニュースになってへんからな。今、大慌てで神戸と警察が今後のことを相談してるわ。……いずれにしても、終わった。……まあ、そういうことで、やっと親父が井上さんから預かったモンの値打ちが消滅したっちゅうわけや。ぼん、おつかれさん。」

「……はあ。そうですか。」


要人は、稲毛をじっと見つめた。



話はわかった。

でも、全てを信じていいのか?


稲毛もまた、貸金庫の中身が欲しくて、要人に嘘をついている可能性はないか?


要人は、稲毛を信用していないわけではない。


だが……貸倉庫の鍵を、あっさり返して終わりにする気にはならなかった。

< 138 / 666 >

この作品をシェア

pagetop