いつも、雨
「とりあえず……、おっちゃんの墓参り、させてください。」

「……は?」

要人の要求は、稲毛には突拍子なく思えたらしい。


「お墓、ないですか?じゃあ御仏壇でも。……線香、あげさせてください。」

重ねてそう頼むと、稲毛は少し笑った。

「どう見ても無神論者やのに……おおきに。親父、喜ぶわ。……墓は黒谷さんや。井上さんの口利きで、ええとこもらえたんや。これから行くけ?」

「もう閉門の時間じゃないですか?明日にしましょう。墓前にお供えする花も準備したいし。」

「わかった。ほな、明日。」

稲毛はそう言って、ベンチから立ち上がった。


「あの……何か必要なものはありますか?」

思わず、要人はそう尋ねていた。


ホームレスの扮装が、世を忍ぶ仮の姿なのか……諸事情で本当に家を失っているのか……。

いずれにせよ、鴨五郎の息子だというのなら、出来うる限りの便宜をはかってあげたい。


要人の恩義は、歪まずに、ちゃんと稲毛に伝わったようだ。

「……おおきに。ぼん、おおきに。でも、大丈夫や。ありがとう。」

稲毛はそう言って、帰って行った。


……見るからに汚い格好……。

改めてこうして去っていく稲毛の後ろ姿を見ると……なるほど、鴨五郎とよく似ていた。


しかし……物騒だな。

鴨五郎がそっちの世界のヒト達と何らかの関わりがあることは、わかっているつもりだった。

だから踏み込めなかったのだが……いよいよ、そうも言ってられなくなったようだ。


……防弾チョッキでも着て行くか。


その前に……あいつ……。

学歴と入社テストで優秀でも、ヒトとしては、まだまだだな。


要人は渋い顔で、ビルの中から心配そうに見ている秘書を手招きした。







翌日、山門前で稲毛と落ち合った。

黒いスーツに白い百合の花束を抱えた要人は、嫌でも目立った。

同行者の稲毛が襤褸をまとっているので、なおさらだ。


「王子と乞食やな。」

稲毛は楽しそうにそう言った。


卑屈さを感じさせない口ぶりに、要人は稲毛の育ちの良さを感じた。
< 139 / 666 >

この作品をシェア

pagetop