いつも、雨
……まあ……大豪邸だったよな。

ヤクザ云々はともかく……。


「俺はただの成金ですよ。……おっちゃんがいいひんかったら……今でも、ただの、『いきった』チンピラやったかもしれません。」


要人は、ついぞ使うことのなくなっていた「いきる」という言葉を使った。



昔の俺は、確かにいきったお山の大将だった。

学校では優等生でも、実際には、近所の悪童のボスにおさまり、いい気になっていた。


……まあ、今も、まだまだ小さな会社の大将でしかない。


もっと大きくならなければいけない。

もっと。

もっと。





「いや。そっちの道に進んだかて、ぼんやったら、すぐ幹部やろ。」

「そっちの道……。」


極道か。

毛嫌いしてはいないが、それでは、橘家には一生認められまい。


「稲毛さん。仙人のように暮らすあなたには笑われるかもしれませんが……俺は社会的に成功したいんですよ。もうけたいわけでも、贅沢したいわけでもなく……。」


珍しく、要人は稲毛に建て前ではなく、本音を言っていた。


稲毛は飄々とうなずいた。

「そうらしいな。よかったなあ。目標ができて。……ぼんは、昔から大金ができても、自分のことには全然使わんかったんやろ?ストイックなんはええこっちゃけど、それこそ、仙人みたいやん。……あ、俺は使うで。退屈なんは嫌やねん。ハラハラドキドキしてたいねん。」


「……ハラハラドキドキ……ですか?」


なるほど。

世の中にはいろんな人間がいる。

稲毛は、恩人の子だ。

最終的に俺の敵にならない限り、手厚く報うつもりだ。



要人は、稲毛が自分に導く出逢いや厄介事には気づかないまま、彼の人となりを受け入れた。




鴨五郎の墓は、よりによって、亡くなった組長のすぐそばに立っていた。


……これは……花と線香をおすそ分けしたほうがいいのだろうか。


一瞬の躊躇の後、要人は組長の墓にも花を手向けた。


稲毛は、何も言わずに要人の行為を見ていた。  


やはりこの男、おもしろい。

親父が気に入っただけのことはある。


「ぼん。……このまま一緒に、貸金庫行こうか。……組にとっては今さらでも……ぼんがこれから京都で仕事するんやったら、……役に立つこともあるやろ。」


稲毛は、鴨五郎の遺言に背いた。


役に立つかもしれない。

だが、致命傷にもなりかねない。


そんな危険な情報を、この男に与えたら……どうなるのか……。


ワクワクしてきたぞ。
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