いつも、雨
要人(かなと)は、手を合わせて墓の中の鴨五郎と対話した。


早くに両親を失い、天花寺(てんげいじ)の大奥さまを看取り、……大恩ある鴨五郎にも逢えないまま……。


お礼も言いたかったし、いっぱい相談もしたかったよ……おっちゃん。

おっちゃんに……話を聞いてほしかったよ……。


じんわりと涙がこみ上げてくる。


稲毛は、父を慕って肩を震わせた要人を、斜め後ろから観察していた。






件(くだん)の貸倉庫までは、流しのタクシーを拾った。

ホームレスなんか乗せたくないとゴネる運転手に過分なチップを握らせた。


「……ぼんは……もうちょっと身なりに気遣ったほうがええなあ。」


稲毛の言葉に、運転手が目を剥いた。


襤褸をまとった汚い男が、ブラックフォーマルの美男子に、何を言うてるんや!?


運転手の心の声が聞こえてくるようで、要人は苦笑した。

「これじゃダメでしたか?天花寺のご当主が亡くなられた時に、東京の紳士服量販店で買ったものですが。……古いですか?」

「普通やな。普通の男やったらそれで充分や。いや、生地は悪くない。一応、店で一番エエもん買うたんやろうけど……全然あかんわ。サイスが合ってへん。」

稲毛はそう言って、要人の肩、そして袖口を指さした。


指摘されるほど、大きくも小さくもないのだが……。



「ええか?スーツとシャツは、必ず採寸して作らんとあかん。ブランドのプレタポルテより、量販店のオーダーメイドのほうがマシなぐらいや。」

「……仕事のスーツは、デパートのイージーオーダーですが……それではダメですか?」


要人とて、ヒトが外見でヒトを判断することは重々承知している。

恥ずかしくない格好はしているつもりだったのだが……。


「イージーな。悪くない。……でも、ぼんが目指す世界の住人は、ロンドンやらイタリアやらに作りに行くんちゃうか。」

「……そうですね。阿呆らしいけど、そういう価値観を共有するふりをすることは大切ですね。……わかりました。腕のいい仕立屋を探します。京都で。」



稲毛の言葉で、要人は地元経済界のお歴々の格好を思い出した。

いや、服だけじゃない。

興味のない付き合いも、今後は増えるだろう。
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