いつも、雨
……やっぱり、俺、騙されたんだろうか……。


一瞬、要人は稲毛を疑った。


要人は、窓から稲毛を見ながら……受け取ったファイルを開けた。

一瞥してヤバいものだとわかった。

個人情報以上の、暗部を暴き立てる情報と、金額と日附。

組がむしり取った寄付金という名目の金らしい。


まあ……確かに、稲毛さんよりも、俺のほうが、使えそうだが……。


窓の外に再び目を移す。

と、まさに、今、ドラマのような事件が起きていた。



稲毛の前に飛び出してきたチンピラが、問答無用で銃を構えて発砲したのだ。

建物の中にまで銃声が響いてきた。

稲毛はバタリと倒れた。

チンピラは、稲毛の手許に散らばった紙袋を抱えて走り去った。



嘘だろ!?


「稲毛さんっ!!!」

窓ははめ込み式で、開かない。

要人は慌てて建物から出た。


「稲毛さんっ!!稲毛さんっ!?」

うつ伏せに倒れている稲毛を抱き起こす……と、稲毛は要人の腕をポンポンと軽く叩いた。

「……出てくるな言うたやろ。阿呆やな。」

稲毛は、ニッと笑って、自分で身体を起こした。

「大丈夫や。防弾チョッキ着てるからな。……おー、痛い。」


防弾チョッキ……。


要人はどっと脱力した。



「……血の気の多いガキやったなあ。あんなもんのために人殺して、臭い飯喰う気ぃやってんろうか。……指1本で勘弁してもらえへんで。かわいそうに。」

稲毛は自分を撃ったチンピラを憐れんでいるようだ。


要人は、稲毛という男が心底わからなくなった。


鴨五郎のおっちゃんも仙人みたいやったけど……まだ若いのに、息子もかなり変だ。


「どうされるんですか?」

「……せやなあ。とりあえず……死んだ井上さんの弟さんらぁに報告やな。ほな、な。ぼん。気ぃつけて帰りや。」

「え……。いや、送りますよ。安全なところまで。それに念の為に病院に行ったほうが……」


要人は稲毛を引き留めようとした。


でも稲毛は手を振って、去ってしまった。






チンピラのホームレス襲撃は、事件にすらなかった。

まるで現実感のないままに、日々が過ぎて行った。
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