いつも、雨
稲毛の姿を探して、要人は幾度となく上賀茂の稲毛宅を訪ねてみた。


かつてのように、人相の悪い男たちが見張っている様子はうかがえない。


これなら、大丈夫だろうか……。



思い切って、呼び鈴を鳴らしても、中からの返事はない。

しかし、電気メーターの動きを見ると、やはり中に誰かが生活している気がする。


……しかたない。

何か事情があるのだろう。


諦めて、帰ろうとしたその時、スーパーの大きなレジ袋を両手に持った若い女性がやってきた。


女性は不思議そうに要人を見て……突然、雷に打たれたように、身体を硬直させて固まり……両手に持っていた袋を落としてしまった。


「大丈夫ですか?」

要人は、アスファルトに散らばった袋の中身を拾ってやろうと、屈んだ。


「あ!あの!大丈夫です!すみません!」

慌てて彼女もしゃがんで、拾った。


カップヌードル、インスタントの袋麺、サンドイッチ、おにぎり、包帯、傷薬、カミソリ、男物の下着類……。


改めて要人は、女性を見た。

どう見ても、普通の……いや、普通よりも地味で、知的で、品のありそうな……教養のある若いお嬢さんの買い物としては違和感があった。


至近距離でじっと見つめたせいか、彼女の頬が真っ赤に染まった。


……これはまた……わかりやすい一目惚れだな……。

もちろん男として、悪い気はしないが……。


やたらモテてきた要人にとっては日常過ぎて、もはやなれっこ。

特に感銘を受けることもなくなってしまった。


……自分にとって都合がいいなら利用しなくもないが……。



「どうぞ。」

最後にコロコロ転がって来たカップ麺を拾うと、要人はすっくと立ち上がった。

そして稲毛邸を一瞥し、彼女に会釈して立ち去ろうとした。

しかし、彼女に留められた。


「……あのぉ……こちらの……稲毛さまに御用がおありですか?」


……ほう。

このお嬢さんには、利用価値があるかもしれない。


なるほど。

この買物は……稲毛宅に籠もる誰かのためのもの……か。



「……はい。あなたも?……では、稲毛さんはご在宅ですか?」


要人は、彼女にそう確認してから、稲毛邸を見上げた。

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