いつも、雨
細い窓の黒い影が動いた気がする。

やはり中に人がいる。

俺を……俺と、このお嬢さんを、見ているようだ。


「いなけ……さんは、あまり来られないそうです。」

彼女は要人にそう言いながら……ちらっと稲毛邸を見上げた。


……公にできない滞在者ということか。


要人はうなずいた。

「わかりました。それでは、稲毛さんが来られた時でけっこうですので、ご伝言していただけますか?竹原が会いたがっている、と。」


「え!?竹原さん!?……あの、ちょっと待ってください!……いえ、どうぞ、入ってください!」

彼女は慌ててそう言って、要人の腕を引っ張ろうとして、再び、レジ袋を1つ、落としてしまった。


「あ……。」

恥ずかしそうな、泣きそうな顔。


……かわいい……と、素直に感じた。


「……持ちましょう。」

要人は苦笑して、彼女の腕に残ったレジ袋を取り上げ、落ちたほうも拾い上げた。


「ありがとうございます。」

ふわりとほほ笑んだ彼女に、要人も自然と笑顔を返した。





初めて中に入った稲毛邸は、外観通り、今風の豪邸だった。

めんどくさいまでのセキュリティーが、中から解除された。


「どうぞ。……カイデです。ただいま戻りました。」

彼女の口から出たワードの不思議さに、要人は首を傾げた。


名前?

コードネームとかじゃないよな?

カエデじゃなくて、カイデ?

何だ?それ。


「……おかえり、佐那(さな)ちゃん。……で?どちらの、兄さんや?」

中から出てきた男は、いかにも!な、雰囲気のヤクザだった。

身なりの良さと、年齢、風格から、そこそこ幹部クラスの大物かもしれない。


……で? 

カイデと名乗ったこのお嬢さんの名前は「サナ」なんだな。



「ただいま。井上さん。抗生物質、もらえました。消毒薬も。……こちら、あの……稲毛さんを訪ねてらした竹原さん、ですって。」

佐那は、ヤクザを井上、と呼んだ。

それは……死んだ先代の組長と同じ苗字だ。


なるほど。

このひとが、稲毛の言っていた井上の弟か。


要人は、卑屈にならないように、背中を張って、堂々と挨拶した。
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