いつも、雨
「はじめまして。竹原と申します。稲毛さんの亡くなられたお父さまに、ずいぶんと助けていただき、育てていただきました。」


井上の表情が緩んだ。

「聞きました。兄貴の墓に花を手向けてくれはったそうで。おおきに。それに、この度は、お世話になります。ありがとうございます。」

井上は、両手を開いた両脚の膝に置いて、腰から二つ折りになるほどに深々と頭を下げた。


まさか元組長の弟に礼を尽くされるとは思わず、要人は唖然とした。


……てか、お世話になりますって……どういうことだ?



「あの……どうか、顔を上げてください。……あ……血……。」


井上の両手に巻かれた白い包帯に血と、黄色っぽい汁が滲んでいた。


……てゆーか……あの包帯って……なんか不自然……。


ああ、そうか。

指だ。

両手とも、指が足りない。

小指をつめた、と言うことか……。


何となく、事情がわかってきたぞ。

そうか。

足を洗ったんだな。


……俺の世話になるってのは……就職口を紹介しろということか。


まあ……拡張するには、人手はいくらあっても足りない
が……普通の社員とともに事務職というわけにはいくまい。

あの指。

おそらく、刺青なんかもあるだろうし……。



「大変!貸して!」

横から佐那の手が伸びてきた。

佐那は、要人からレジ袋を奪い、包帯と薬を出した。


「井上さん!これ、すぐに飲んでください!それから、消毒を……」

「おおきに。佐那ちゃん。すまんな。」

井上は、やっと頭を上げると、照れくさそうに佐那に両手を突き出した。



……それは、見るに耐えない情景だった。


かつては治安のよくない地域の市営マンションに住んでいた要人にとって、指や歯が足りないおじさんは、そう珍しいものではなかった。

しかし、まだ切り落とされて日の経っていない……しかも、化膿して変な形に膨らんだグロテスクな色の患部は、とても直視できない。



吐きそうだ。


なのに、この佐那と言う若い女は、必死に手当てしている。



根性の座った子だな。
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