いつも、雨
「叔父貴!」

原が泣きそうな顔になった。


2人の関係性を確認して、要人は頷いて見せた。

「わかりました。稲毛さんからお話をうかがう前に承諾するのは僭越かもしれませんが。……とりあえず、井上さんの傷が完治して……原くんの髪が伸びるまでは、研修期間ということにしましょうか。すぐに人事に通します。」


「え……あんた、そんな簡単に……」

単純に喜ぶ井上と佐那と対照的に、原は絶句した。


なるほど。

原くんは、多少は社会を知っているらしい。


要人は、原という若造に興味を抱いた。

「曲がりなりにも、ワンマン社長やからな……これでも。」

しれっとそう言った。


「普通は、入社試験とかあるやんけ。学歴とか前科とか、ちゃんと調べてからにせぇや。」

噛みつく原に、要人は苦笑した。


「学歴はともかく、前科は履歴書に記入する欄はないなあ。……かまわんよ。学歴が超一流でも使えない人間ばかりで辟易してるんや。……そうだ。原くん、髪が伸びたら、俺の秘書をやってみ。社会勉強になるわ。」


「俺が……秘書?」

さすがの原も毒気を抜かれたらしい。


「ボディガードってことですか?」

井上もまた、要人の言葉を受け止めきれなかったらしい。

でも要人は手を振って否定した。

「いやいや。むしろお二人にそんな危険なことはしてほしくありません。我が社の社員になっていただくからには、お二人を守ることは私の義務だと思っています。……ゆっくり、適性を見極めて、ふさわしい業務に当たっていただきますよ。」


井上にそう説明してから、要人は原に言った。


「俺も、学歴は高卒や。」

大学中退、とは言わなかった。


どれだけ偏差値の高い大学に合格し、通っていても、卒業しなかったら意味がない。

いや、むしろ、合格したことをひけらかすようでみっともない。


要人は、これまでも以後もずっと「高卒」と言い続けた。







夕方、佐那が帰るというので、要人も一緒に稲毛邸を出た。

「車で来てるので、お送りしますよ。妙齢の女性の一人歩きは危険ですから。」

ただの社交辞令だった。


でも佐那があまりにもうれしそうに目を輝かせるから……要人の心も弾んだ。


銀色のベンツに臆することなく、佐那はお行儀よく助手席に座った。
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