いつも、雨
要人のハンカチを大事そうに両手で持って、佐那は目尻をそっと押さえた。

アイラインもマスカラもしていない薄化粧が、要人の目に新鮮にうつった。


「井上さんは亡くならはった元組長の弟で、荒井さんはつい先日狙撃された新組長候補の1人やったヒトの弟さん……やったかな。……結局、跡目争いに負けはったか……放棄しはったか……どっちにせよ、新体制とは無関係ってことか。……稲毛さんは、次の組長とも昵懇なんかな。」


要人の言葉に佐那は顔を上げた。


「……私よりよくご存じみたい。」

「新聞から仕入れられる程度の情報で推察しただけやけどね。……ところで、原くんの腕は、骨折?何したの?」 

「金属バットで打たれそうになったのを腕で受けたら、骨にひびが入ったそうです。」

「……金属バット?内ゲバ?」

「愛の鞭だと原くんは言ってました。……原くん、自分勝手に行動してたみたいで……井上さんに蹴られたり、踏まれたり……怖かったです。」


再び涙目になった佐那は、要人のハンカチを大事そうに持ったまま……無意識なのだろう……ポケットから自分のハンカチを出して来て、涙を拭った。

鈴蘭の刺繍が施された美しい白いハンカチだった。


「あ……」

要人の視線に気づいて、佐那は恥ずかしそうにハンカチを2枚ともポケットにいれた。


自然と、要人の口元が緩んだ。


最初から自分のハンカチ使えよ……なんて思うわけない。

男物のハンカチのほうが、大きいし、余計な装飾がない分、吸水性も高いものが多い。



「……刺繍、自分でしたの?かわいい。」

気にしなくていいよ。

そんなつもりで、要人はハンカチを話題にした。



佐那は、ぷるぷると首を横に振った。

「まさか!……私……不器用なんです。刺繍なんて、とても……。料理もできないし……。」

「あぁ、それで、インスタントラーメンか。……まあ、いいんじゃない?まだ学生さんやねんろ?」

「はい。2回生です。」


……てことは……領子さまより1つ歳下か。


いつもの癖で、要人の女性を測る物差しの基準値は領子のまま。



領子より歳が上か下か。

領子よりワガママか。

領子より美しい女性は……なかなかいない……。


頭の中でつんと顎を上げて強がる領子を振り払うように、要人は勢いよく佐那のほうを向いて、ほほ笑みかけた。
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