いつも、雨
「ごめんなさい。……社交辞令を真に受けて……一喜一憂して……。」

佐那はそう言って、ポロポロと涙をこぼした。


ぎょっとして、要人はハンカチを探そうとして……既に佐那に渡してしまってることに気づいた。

身体を捻って、後部座席に放置していたティッシュをボックスごと取ろうとした。

そして……気が変わった。


要人は佐那をぐいっと抱き寄せた。


ティッシュではなくシャツで涙を拭けばいい。


佐那は、カチコチに硬直していたが……要人が背中を優しくさすってやると、次第に緊張がほどけてきたらしい。

小刻みな震えが止まり、胸元がじんわりと佐那の涙で濡れてきた。



要人は小さく息をついた。

「ごめん。誤解させたなら、謝る。……でも、社交辞令じゃないから。佐那ちゃんに、また逢いたいって思ったから、誘ったんや。」



本当に、京都の言葉は難しい。

社交辞令で、その気がなくても礼儀として簡単に誘う。

その場のノリで終われそうにない時には、「また今度」と言えば、相手にも「また」はないと通じる。


……でも、この場合は……、単に、今日知り合ったばかりの、いかにも真面目そうなお嬢さんを、このまま連れ回すわけにはいかないからの「また今度」のつもりだった。

家まで送り届けてから、車から降ろす前に、ちゃんと連絡先を尋ねて、次の約束を取り付けるつもりだった。


「せっかちなお嬢さんやなぁ。」


そう苦笑すると、佐那はガバッと顔を上げた。


「20年生きてて、初めて、実在する生身の男性に一目惚れしたんです!……このまま、お持ち帰りされて、明日の朝、竹原さんが葉っぱになってても、悔いはありません!」


……葉っぱ?


唖然とする要人に、佐那はあわあわして……声のトーンを落とした。


「……竹原さんが狐か狸だったとしても?……もう少し化かされていたいなあ……って……。」


ぶっ……。

要人は軽く吹き出し……そのまま、額に手を宛がい、声を挙げて笑った。
< 152 / 666 >

この作品をシェア

pagetop