いつも、雨
こんなに笑ったのは、いつ以来だろうか……。

もしかしたら、子供の頃まで遡るかもしれない。

笑いすぎて涙が出てくるって……たまらないな。


まだ、おさまらない愉悦が、軽い喘息を引き起こす。


「もう……。そこまで笑わんでも。……竹原さん、笑い上戸(じょうご)なんですね。」


佐那にそう言われて、要人はまた笑って、咳き込んだ。

慌てて、今度は佐那が要人の背中をさすった。


「……ありがと。……あー、びっくりした。笑い上戸なんて、生まれて初めて言われたわ。……佐那ちゃん、楽しいわ。マジで。」



しばらくして、咳のおさまるのを待って、要人は言った。

「やー、おもしろいわ。佐那ちゃん。発想が楽しいわ。……普通は、狐や狸に化かされることより、ヤリ逃げされることを心配するんじゃない?」

思わず、あまり品のよろしくない言葉を使ってしまった。


でも佐那は、しれっと言った。

「だって、竹原さんみたいなヒトが、私みたいに地味で平凡な学生に興味を持つはずがないし……こうしてお知り合いになれただけでもラッキーなのに……それ以上とか……幸せ過ぎて、無理。」



……どういう意味だろう。

無理って……結局、お断りされてるのか?


好意はビシビシ伝わってくるのに、佐那の言葉がよくわからない。


ジェネレーションギャップなのだろうか。



「無理……か……。」

そうつぶやいて、再び要人は車を発進させた。


佐那は、難しい顔になった要人を見つめて……自分の言葉のチョイスがまずかったらしいことに気づいた。



全然、無理じゃない。

もちろん、うれしいに決まってる。


でも、自分の容姿に自信のない佐那は、それ以上どう言えばいいのかわからず……要人の整った横顔に見惚れていた。




国道171号線を南下して、京都市を抜けると、要人は佐那に道案内を頼んだ。

佐那は自宅近くへと、なるべく走りやすい道を選んで指示した。


的確なナビが佐那の優秀さを感じさせた。


まだ大きな田んぼや畑がいっぱい残る地域に入ると……要人は気づいた。


「カイデって、これ?佐那ちゃんの名字は、字名(あざめい)なの?……珍しい言葉やなあ。……これは読めんわ。」

そこかしこの看板や住所表記に「かいで」の文字を見つけた。
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