いつも、雨
佐那は苦笑した。

「はあ。難読地名で、難読名字ですよね。……鶏冠井(かいで)です。鶏冠井佐那子って言います。……あ。そこで駐めてください。この先は旧道で道が細くって車は入れないんです。……ここ、うちのガレージなので。」


広いガレージの入り口付近に、要人は車を駐めた


「……佐那子ちゃん、やったんや。失礼。」

要人はゴソゴソと懐を探って、名刺入れと万年筆を出した。

社用で使う名刺の裏に、社長室の番号と……自宅の住所と電話番号も書き込んでから、佐那子に手渡した。


「竹原……要人(かなと)さん……。」

佐那子の頬がまた赤らんだ。


かわいくて……また抱き寄せたくなったけれど、自制した。

無理と言われたことが、引っかかっていた。


「じゃあ、今日はここで。……佐那子ちゃんが無理でなくなったら、いつでも連絡して。……無理なままでも、稲毛さんや原くんのこともあるし、これからもまた逢うやろうし、気長に考えてくれてたらいいよ。そのうち無理じゃなくなるかもしれへんし。」

要人は、口振りだけは爽やかにそう言った。

でも、言ってることは、偏執的だったかもしれない。


……正直なところ、本気でこのまま終わりたくなくなっていた。

どんな子かわからないままに、惹かれていた。

こんなに笑わせてくれる、新鮮な子に、初めて出会った。

もう少し……いや、もっと一緒にいたい。

彼女の話を聞きたい。



佐那子は、要人の言葉を反芻して……先ほどの自分の失言を、再び悔いた。

そして、意を決した。

「あの……無理じゃないです。ごめんなさい。どう言えばいいのか……んー……気まぐれでも、お戯れでも……うれしいです。」


真剣だった。

だから、要人も真面目に答えた。


「こら。自分を大事にしない子は嫌いや。必要以上の謙遜も卑下もせんとき。佐那子ちゃんはかわいいよ。このまま連れて帰りたいぐらいや。……いっそ、俺と、つきあうか?」


「え……つきあうって……え?ええっ!?む!」

無理!と言いかけて、佐那子は慌てて口を抑えた。


無理じゃない!

全然無理じゃない!

うれしいっ!
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