いつも、雨
初対面の、これから関係性を築いていこうという女の子に対する言葉じゃない。


……むしろこれって、事後にフェードアウト狙いで距離を置くための言葉じゃないか?


焦る要人(かなと)と対照的に、佐那子(さなこ)は要人の歯に衣着せない言葉を前向きに受け止めた。


佐那子は、ゴソゴソともがき、要人の腕の中で顔を上げた。


避けたつもりのまっすぐな瞳に至近距離で見上げられて、要人はドキッとした。


瞳だけじゃない。

健康的な肌色のつるつるの皮膚や、細過ぎない自然な眉毛、ろくに発色していない口紅……全てが、新鮮だった。



「お仕事、フレックスなんですか?社長やから、自由?……明日、私、1講目と4講目に講義が入ってるんです。だから……10時半から14時半過ぎ頃まであいてるんですけど……」


ふっ……と、要人の頬が自然とゆるんだ。


言葉を選ばなくても意図が通じる相手は、なかなかいない。

要人にとっては、初めての感覚かもしれない。


「じゃあ、一緒に昼飯食おうか。」

「はい!!」

かぶせ気味に、佐那子は勢いよく返事した。


うなずいて、要人は、続けた。

「……自由……かなぁ。微妙。でも、たぶんどの社員より働いてる自負はあるけど。」


佐那子は首を傾げて尋ねた。

「……もしかして、このあともお仕事ですか?」

「うん。そやなあ。……もうね、どこまでが仕事で、どこからがつきあいやったり、遊びやったりするんか、自分でもわからへんねんわ。紙の仕事も、パソコンの仕事も、会社の業務時間で終わる量じゃないから、家でもやるし。」


やればやるだけ結果が出る。

道は遠くとも、確実に一歩ずつ進んでいる手応えがある。


かつてはM&Aで終わっていたが、提携、営業譲渡、吸収合併を繰り返して、会社はぶくぶくと膨れ上がっている。
学ぶことは山ほどある。

業種の違う会社を統括するには、要人ひとりの身体と時間だけでは手が回らない。

実務の責任者から瞬時の判断を求められた時、聞かなくても状況を全て把握している前提でいたいがために、要人には勉強すべきことが際限なくあった。





佐那子が細い路地に消えるのを見送ってから、要人は会社に戻った。

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