いつも、雨
就業時間はとっくに終わっているが、まだどの部署も稼働しているらしい。

能力主義、成果主義なので、残業時間は評価に値しない。

それでも、がんばってくれている社員に、珍しく要人は愛しさを覚えた。


改めて、自分の心の変化に驚いた。


……てゆーか、これまで、どれだけ心を閉ざして来たのか……我ながら、呆れる。


たった一人の、平凡な女の子に笑わされた……ただそれだけの体験が、要人の凍りついた心を人並みの温度に温めてくれたようだ。


「鶏冠井(かいで)……佐那子……か……。」

程よく郊外の、豪族の家の末裔のお嬢さん……てところかな?

亡くなったおじいさんは保護司って言ってたな。

要人は常々領子の動向を探らせている会社に、佐那子のことも依頼した。




結局、帰宅しても、明け方まで仕事に没頭してしまっていた。

かなりはかどったけれど、……眠い。

2時間ほどの仮眠だけで出社した。



いつも通り定時出勤定時退社の使えない秘書は、今朝は二日酔いらしい。

体調最悪でフラフラらしく、要人の睡眠不足にも、そのくせ上機嫌なことにも気づかない。


……原くんがどれほどヤンチャでも、アレよりはマシやろう。


現在の秘書に何に期待もしていない要人は、人事が急いで準備してくれた契約書や研修項目、社則の入った封筒を抱えてイソイソと佐那子を迎えに行った。




どうやら佐那子も夕べよく眠れなかったらしい。

目の下に隈ができていた。

「要人さん!こんにちは。……もしかして、お仕事、朝までやってらしたんですか?」

わらわらと女子大生が行き来する坂道に、スーツのイケメンがベンツで登場。

しかも乗せたのは、地味で冴えない子。

周囲の視線が痛いシチュエーションのはずなのだが、佐那子は全然気にならないようだった。

優越感すらないらしい。

どこまでも自然体だ。

そして、自分も寝不足だろうに要人の心配をする。


意識しなくても、要人の頬が緩んだ。


「おはよう。大丈夫。……とりあえず、乗って。」

「あ、はい。お邪魔します。」

佐那子が助手席にお行儀よくおさまるのを待って、要人は車を出した。

< 157 / 666 >

この作品をシェア

pagetop