いつも、雨
腕のなかで、すやすやと眠っている佐那子。


寝てても笑ってるのか……。

……幸せそうやなあ……。


要人(かなと)もまた、佐那子の寝顔を眺めているだけで幸せになれた。

そして、充足感と安心感に満たされて、極上の睡眠を得られた。

こんなことは、初めてだ。




かつて領子(えりこ)に抱いた激しさはない。

しかし、ずっと付随してきた諦めも、理不尽もない。

一方的に尽くすわけでもなく、求め合ったり、奪い合うのでもない……優しさと愛を与え合う関係。


そんな美しい愛の形が、要人に自信と余裕を与えた。





佐那子とつきあい始めてから、業績はうなぎ登りだった。


3ヶ月の準備期間を経て、髪が生え揃った原を秘書に抜擢したのも功を奏したようだ。

初対面では反抗的だった原は、要人が約束を違えず自分達に社会的に居場所を与えてくれたことで、態度を改めた。


肩で風を切ってはいても非社会的な存在だった過去と訣別するチャンスを逃す手はない。

かつては叔父貴、兄貴と慕った井上と荒井にも諭されて、原は命を要人に預けた。

要人を、それだけの価値のある男だと信じて。



その気になった原は、目覚ましい活躍を見せた。

もともと頭がいい……と、佐那子から聞いていたが、なるほど。

地頭(じあたま)の良さは自分以上だと、要人は認めた。


社会性、協調性の乏しさは、日々の我慢と訓練しかない。

要人は根気強く原に感情の制御を教え、代わりに溜まった鬱憤を仕事に昇華させるよう促した。





「原くんが紳士に見える……。」

前任者と違い、会社以外でも要人を守ろうと常に随行する原の変貌に、佐那子も驚いた。


原は、不敵に笑って……本音の後に、建て前を述べた。

「うるさいんじゃ。色ぼけしても、ぶっさいくは直らへんなあ。……佐那子さんはお変わりないようですね。」


「……うわぁ……中身は変わってへん。……けど、擬態は出来るようになったのねえ。」

ずいぶんなことを言われても一向にへこたれない佐那子に、要人は苦笑混じりで謝った。


「これでも仕事では慇懃無礼を覚えたんやけどね。……君は気心がしれてるから、甘えてるんだろう。すまないね。」

社長の謝罪を横目に、渋々、原は佐那子に頭を下げた。


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