いつも、雨
要人が席をはずすのを待って、原が佐那子に言った。

「先週、地元のツレに聞いてんけど……お前、政治家と結婚するって?……社長は、知ってるんけ?」

ものすごく低い小さな声だったが、ドスが利いていて怖かった。


佐那子の眉間に皺が寄った。

「はあ?急に何?……何も聞いてないけど。それ、私の話?」

「お前の親がゆーてるらしいで。国会議員の次男を婿養子に迎えて地盤を継がせるって。」



原の言葉を聞いて、思わず佐那子は口元を手で覆った。


ちっ……と、原が小さく舌打ちした。



「……教えてくれて、ありがとう。」

佐那子はやっとそう言って……鞄を持って立ち上がった。


「どうする気ぃや。社長と別れるんけ?」


原にそう尋ねられて、佐那子はぶるぶると首を横に振った。


「無理。絶対無理。とにかく父と話し合ってくる。……そうだ、先に市役所に行かなきゃ。婚姻届の不受理申出書を提出しとかないと……。」


慌ただしく、佐那子は帰って行ってしまった。






用事を済ませて戻ってきた要人に、原は言葉を選んで報告した。

「……つまり……彼女のお父上は、地盤を譲る娘婿を決めたということか。」

佐那子の家が昔からの地主で、農家で、政治家だということはとっくにわかっていた。

ご両親が、佐那子自身ではなく、佐那子の配偶者となる男に、政治家としての跡を継がせるつもりだということも……各方面から耳に入っていた。

しかし、要人は政治には興味がない。


遅かれ早かれ、いずれは直面する問題だった。



「社長は、どうされるつもりですか?」

一応、原は心配しているらしい。


要人は、肩をすくめて見せた。

「どうもせんよ。彼女が決めることだ。」

「……。」

納得いかないらしく、原は口をつぐんで、要人をじっと見ていた。



「そう、睨むな。……今の段階で俺が、彼女のご両親に逢いに行っても、危機感を募らせてしまうだけで逆効果やろ?……彼女の口から、どうしたいか……俺にどうして欲しいかも聞いてからじゃないと、動けんよ。」

「あいつが……佐那子さんが自宅に軟禁されたら、話もできませんよ?婚姻届を勝手に出してしまいそうな親なら……どんな手を使ってくるか……」

「ふむ。金で歓心を買えるご両親ではなさそうやしなあ。」
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