いつも、雨
原には、要人が本気で悩んでいるようにも困っているようにも見えなかった。

要人が佐那子と真剣につきあっている……というよりは、佐那子の無償の愛に依存しきっていることは火を見るよりも明らかだ。


なのにこの危機感のなさは、何だ?

それだけ……自信があるのか?

あいつが、両親より社長を選ぶ……と?


原には、要人がどこまでも自信家に見えた。




しかしむしろ逆だった。

要人には、トラウマがある。

どんなに愛し合っていても、領子は他の男との結婚を選んだ。


女性の……いや、他人の決断なんかアテにできない。

俺が決める。

でも今はその段階じゃない。

まずは情報収集。

それから、準備が必要だ。


……手放すものか……絶対に……。






その夜。

いや、ほとんど既に空が白みかけていたので、翌日の明け方と言ったほうが的確だろう。

要人の部屋の玄関チャイムが鳴らされた。

続いて、タタタタンと軽やかに4度のノック。


……佐那子だ。


要人が戸を開けると、ずぶ濡れの佐那子が肩で息を切らして立っていた。


よく見ると、靴を履いていない。

濡れ鼠のようなのに、佐那子は泣いていなかった。

むしろキラキラと目を輝かせて、頬を紅潮させていた。


たまらず、要人は佐那子を抱きしめた。



「……あなたまで濡れるわ。」


佐那子のつぶやきが、耳に心地いい。


「かまわんよ。……いや、俺はともかく、君はこのままじゃ風邪ひくわ。……すぐお湯入れるから。濡れた服、脱いでしまい。」


要人は佐那子を解放すると、タオルとバスローブを手渡してから、浴室のバスタブにお湯を入れた。


「原くんに聞いた?」

バスローブに着替えた佐那子が、タオルで髪を拭きながら尋ねた。


「……うっすら?……結婚するんだって?」

ついつい要人は、そんな聞き方をしてしまった。


佐那子は唖然として……それから、ぷくっと頬を膨らませた。

「もう!やっぱり原くん、イケズゆーたんや!ひどい!」

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