いつも、雨
幸せそうな佐那子を見ていると、要人の中の黒い影が消えていった。


……俺を幸せにしてくれるのは……たぶん、佐那子しかいない。

要人はそう確信していた。


領子に対する想いが消えたと言えば嘘になる。

今もなお、領子は要人の心の一番奥に居る……永遠のマドンナなのだろう。

でも、領子と一緒にいることが幸せだとは、今は思わない。


佐那子と2人で過ごすたわいない時間。

それこそが幸せなのだ。


いくら要人が俺様なワンマン社長でも、わかる。

会社は独りでは発展しない。

そして、ヒトは独りでは、本当の意味で幸せにはなれない。



「とりあえず今日は寝てなさい。……一睡もしてないんやろ?」

「うん。……私、このまま、ここに居て……いいの?」

佐那子は、わざわざそう確認した。


要人は、ふっとほほ笑んだ。

「……少なくとも、着替えと靴を届けるまでは、この部屋にいなさい。……なるべく早く帰るよ。夜は一緒に食事に行こうか。……その後で、婚姻届を出しに行こう。」

「はいっ!」

佐那子は大きく返事して、むせび泣いた。



……まさか、こんなに突然、妻帯者になるとは思わなかったな。


迎えの車に乗り込むと、すぐに運転手が要人の変化に気づいた。

「あいにくの雨ですが……朝からいいことがありましたか?」


今朝の運転手を勤めてくれるのは、元ヤクザの荒井だ。


要人はいつものポーカーフェイスを作らなかった。

「はい。夜中に、青い鳥が舞い込んで来ましてね。……荒井さん、近々、郊外に家を建てようと思うのですが……セキュリティー面が心配なので、ご相談にのっていただけませんか?」


荒井は、一瞬キョトンとして、それからうっすら笑った。

「なるほど。頑丈な鳥籠が必要なんですね。」


「ええ。一生閉じ込めても、不自由を感じさせない、……できたら、自然豊かな……敷地内に山や川のある鳥籠がいいな。」

「……社長が会社に通える範囲で探さないといけませんね。」


荒井は、それ以上は何も言わなかった。


要人もまた口を閉ざし、目を閉じた。
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