いつも、雨
わずかな時間なのに、夢を見た。

とても幸せな夢……。

具体的には覚えてないが、幸せだった……。


目覚めても、会社に着いても、幸せな気分は消えなかった。


迎えに出た秘書の原も、すぐに気づいた。



……あいつ、家出でもして、社長の部屋に転がり込んだのか?

いや……。

ただの家出なら、こうまで社長が上機嫌になるとも思えない。


うかがうようにじっと見ている原に気づき、要人は苦笑して……それから、咳を1つ。

「あー、原くんに頼みたいことがあるんだが……昼から少し、外出してきてくれないか。」

「はい。」


たとえ会社の業務に関係のない個人的なことでも、嫌な顔ひとつ見せない。

むしろ率先して、要人の役に立とうと努めている。

だが、この場合は、何もツッコまない、何も聞かない原に、要人のほうが音を上げた。




「明け方、彼女が手ぶらで飛び込んできてね。悪いが、身の回りのモノを揃えて届けてやってくれないか。……こうなってみて、改めて気づいたんやけど……俺の部屋には何もない。彼女のものが。着替えも、化粧品も。」


屈託のない笑顔の下で、佐那子はいったい、どういうつもりで妙な気を遣っていたのだろう。

外泊はできないらしいので、泊っていったことはないものの、休日はずっと要人の部屋で過ごすこともあったというのに……確か、身軽そうなホームウェアやスペアの下着に着替えていたことはあったから……うちには置かずに、その都度持ち帰っていたのだろう。


「……なるほど。自分以外の別の本命女性が現れても、社長にご迷惑をかけたくないという配慮でしょうか。……いじらしいですね。」

半笑いで、原はわざわざ言葉にして、要人に釘を刺した。


要人は肩をすくめた。

「ふむ。信じてもらえてなかったかな。……まあ、そういうことだ。年貢を納めるとするよ。……そうだ、靴と……傷薬と風邪薬も頼む。雨の中を裸足で駆けてきたにしては小さな傷しかなかったが、化膿してもおかしくない。」


さらりと聞き流せなかった。

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