いつも、雨
「あの……恭風さま。私に何かお手伝いできることがあれば、何でもお申し付けください。」

遠慮がちに、キタさんが言った。


そのために来たのだ。

エプロンだって持参している。



しかし恭風は、苦笑して、頭を下げた。

「おおきに。そやな……ほな、橘さんらが不自由せんように、気配りしてさしあげてくれんか。……ここの人手は充分やろ。」


確かに、手慣れた僧衣の男女がわらわらとたち働き、どんどん整えられていく。


「ほな、ゆっくりしてて。気ぃつかわんでも、お客さんしてたらええしな。」

僧衣の男に呼ばれて、恭風は行ってしまった。


「お兄さま、これで3度めの喪主ね……。」


それにしても、さばさばしすぎだろう。

愛情の冷めた夫婦というのは、他人と変わらないのかもしれない……。

我が身と照らし合わせて、領子はため息をついた。




通夜の始まる30分前に、橘の家族が到着したと受付の女性が教えてくれた。

既に喪服に着替えて親族席に座っていた領子は、控え室へ一旦下がった。

「お義父さま、お義母さま、ご足労ありがとうございました。……あら……千歳さまは……。」

夫の姿がない。

「お兄さま、お仕事ですって。……お義姉さま、ごめんなさい。」


13歳の義妹に謝られては、何も言えない。


「そうですか。……かほりさま。遠くまで、ありがとうございます。お疲れになりませんでしたか?」


「全然。新幹線、あっという間ですもの。……あの……ご冥福をお祈り致します。」

おそらく、道中、両親にそう言うようにと教えられたのだろう。

でも、素直なかほりの心からの言葉が、領子の心に沁み入った。


領子はかほりに深々と頭を下げて……目尻の涙をそっとハンカチで拭った。





「……本当に、すまないね。……今、あれが関わってる案件が難航していてね。……急遽ニューヨークに発(た)たざるを得なかった。」

式場となる本堂への渡り廊下を歩きながら、舅の千秋がそう謝ってくれた。


「お仕事では仕方ありませんわ。千歳さま、ご無理なさらないといいのですが。……お身体が心配です。」


妻らしい気遣いの言葉に、舅は目を細めた。



……閨以外は……千歳と領子は夫婦として歪(いびつ)なところがなかった。
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