いつも、雨
親類席に着席すると、すぐに甥の恭匡が、年若い女性に手を引かれてやって来た。


「佐那子さん。おおきに。ありがとう。……恭匡。ここに座りよし。」

「……はい。」


甥の恭匡は、佐那子に笑顔でひらひらと手を振ってから、親類席に座っている面々に神妙な面差しで一礼した。


心に、もやっとするものを領子は感じた。


甥と親しげな、佐那子と呼ばれた女性は、親類席ではなく会葬者席の、それも後ろの方に座った。

領子を駅まで迎えに来てくれた原と名乗った男性がすぐ隣に座って、あれこれ世話を焼いているように見えた。


あれは、竹原の、おそらく腹心の部下なのだろう。

並んで座っているということは、彼らは夫婦だろうか……。

あまり似合ってない2人の様子が多少気になった。


……佐那子という女性は、やわらかいほほ笑みをたずさえた、優しそうな、慈愛に満ちた女性に見える。

お腹に手を宛がっているところを見ると、妊娠しているのかもしれない。


ああ、だから、あの原という男性も、あんなにも甲斐甲斐しく面倒を見てるのね。

やっぱり夫婦かしら。





導師の高僧達が本堂に並んで入って来た。

厳かに読経が始まった。

領子は、経本に目を落とした。



……視線を感じる……。

竹原が、いる。

すぐ側に、気配を感じる……。

領子は背筋を伸ばした。



順番に焼香を済ませ、いくつかの読経を聞き、導師が意味のありそうななさそうな話を少しして、その夜の勤めが終わった。

寺の婦人会のかたがたが作られたという、見るからに手作りの精進料理に、失礼のない程度に箸を付けて、領子は橘家一行と共に辞去した。



数年ぶりの京都の天花寺邸は、かつての荒れたお屋敷とは見違えるように美しかった。

庭の草木もちゃんと手入れされているようだ。


先着したキタさんが、お茶を入れてくれた。

「仕出しのお食事も準備していただいてました。召し上がられますか?……精進料理ではないそうです。」


つけ加えられた一言に、その場の誰もがホッと安堵した。


お料理は、かつて領子が好きだった料亭のモノだった。

要人の心遣いを感じて、領子は泣きたくなった。



……竹原……姿を現さないつもりかしら。

それとも、今夜……来てくれるのかしら……。



領子の胸は、身勝手にざわついた。

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