いつも、雨
22時頃、兄の恭風が帰宅した。

恭匡は途中で寝てしまったらしく、原という男に抱っこされて運ばれて来た。


「ありがとうございました。明日もお世話になりますが、よろしくお願いします。」

玄関先でそう言うと、原は芝居がかった大袈裟なお辞儀をした。


……慇懃無礼というか……皮肉っぽいところが……竹原に似てるわ……。


頬がひくりと、ひきつるのを自覚した。



「おおきに。佐那子さんにも、よろしゅう言うといて。」

兄はそう言って原を見送った。


「……佐那子さん……?」

寝ぼけ眼で、恭匡がキョロキョロした。

本当に懐いているのが見て取れた。


「いらっしゃい。恭匡さん。もう遅いわ。おやすみいたしましょう。」

屈んで領子がそう諭すと、恭匡は夢から醒めたように目をぱちくりして……それから、兄の陰に隠れた。


……わたくしではダメということかしら……。


「すまんな。母親にかまってもらえんかったから、特に女に人見知りなんや。珍しく佐那子さんには懐いてくれてホッとしてるんやけど……。」


何のフォローにもならない兄の言葉に、領子は憮然とした。


それでも、キタさんと2人がかりで、甥の恭匡をお風呂に入れて、寝かしつけた。

恭匡は、佐那子さん佐那子さんと、何度もその名を口に出していた。



「恭匡さんは、佐那子さんがお好きなのねえ。」

半ば呆れてそう言ったら、恭匡は拗ねたように言った。

「お母さまも、お父さまが連れてくる女のヒトも、気持ち悪いもん。」


……気持ち悪い?

てゆーか、お兄さま……自宅に女性を連れ込んでらっしゃるの?

恭匡さん、女性不信どころか、人間不信になっちゃうわ。


「そう。佐那子さんは、恭匡さんにお優しいのね。わたくしからも、明日、お礼を申し上げますわ。これからもよろしくお願いします、って。」

領子がそう言うと、恭匡はじっと領子を見つめて、それから言った。

「佐那子さんか、領子おばちゃまが、お母さまならいいのに。……お父さまと結婚してくださらない?」


ふっと、領子は微笑んだ。
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