いつも、雨
「わたくしは、恭匡さんのお父さまの妹ですから、結婚はできないのよ。それにもう結婚しているの。……でも、恭匡さんはわたくしの大切な甥っ子よ。お母さまの代わりにわたくしを頼ってくださいね。」
わかったのかわからないのか……それとも眠たいのか……恭匡は黙って領子を見つめて、それからまぶたを閉じた。
小さな寝息を確認してから、領子は恭匡の部屋を出た。
居間に面した縁側で、兄の恭風は風に当たっていた。
「お兄さま。恭匡さん、お休みになったわ。……佐那子さんに、ずいぶんと懐いてらっしゃるのね。お兄さまと結婚してほしいそうよ。」
領子がそう報告すると、恭風は力なく笑った。
「……はは。エエヒトやと思うけど、わしの趣味ちゃうわ。……でも、あいつも面食いや思ててんけどなあ。」
「失礼ですわよ。」
領子は、兄をたしなめた。
確かに、あの女性は美人というわけではなかった。
でも、笑顔の素敵な女性だったわ。
「ふん。……領子は、偽善者やなあ。」
兄は珍しくやさぐれているようだ。
……まあ……自分の行状はさておき、妻が他の男と遊んでいて亡くなったなんて……耐えがたいわよね。
領子は兄を慮って、反論しなかった。
兄はため息をついた。
「……ほんまに、今日は、最悪やわ……。」
がっくりと肩を落とした兄に、かける言葉が見つからない。
領子は黙って、兄の横に腰を下ろして、庭を眺めた。
薄ぼんやりした灯りで、何となく幻想的に見えた。
……竹原は……姿が見えませんが、どうしてますの……?
そう尋ねたかったけれど……領子はどうしても、その名を口に出すことができなかった。
しばらくして、兄がぽつりと言った。
「東京に……帰ろうかなあ。」
「……お兄さま……。」
京都大好きな兄らしからぬ言葉だった。
「そろそろ恭匡の幼稚園のことも考えたらんといかんし。」
「……そうですわね。やはり学習院が安心ですものね。……わたくしも、恭匡さんに、今までより頻繁に逢えるなら、うれしいわ。」
領子の言葉に、恭風は力なくうなずき……ため息をついた。
わかったのかわからないのか……それとも眠たいのか……恭匡は黙って領子を見つめて、それからまぶたを閉じた。
小さな寝息を確認してから、領子は恭匡の部屋を出た。
居間に面した縁側で、兄の恭風は風に当たっていた。
「お兄さま。恭匡さん、お休みになったわ。……佐那子さんに、ずいぶんと懐いてらっしゃるのね。お兄さまと結婚してほしいそうよ。」
領子がそう報告すると、恭風は力なく笑った。
「……はは。エエヒトやと思うけど、わしの趣味ちゃうわ。……でも、あいつも面食いや思ててんけどなあ。」
「失礼ですわよ。」
領子は、兄をたしなめた。
確かに、あの女性は美人というわけではなかった。
でも、笑顔の素敵な女性だったわ。
「ふん。……領子は、偽善者やなあ。」
兄は珍しくやさぐれているようだ。
……まあ……自分の行状はさておき、妻が他の男と遊んでいて亡くなったなんて……耐えがたいわよね。
領子は兄を慮って、反論しなかった。
兄はため息をついた。
「……ほんまに、今日は、最悪やわ……。」
がっくりと肩を落とした兄に、かける言葉が見つからない。
領子は黙って、兄の横に腰を下ろして、庭を眺めた。
薄ぼんやりした灯りで、何となく幻想的に見えた。
……竹原は……姿が見えませんが、どうしてますの……?
そう尋ねたかったけれど……領子はどうしても、その名を口に出すことができなかった。
しばらくして、兄がぽつりと言った。
「東京に……帰ろうかなあ。」
「……お兄さま……。」
京都大好きな兄らしからぬ言葉だった。
「そろそろ恭匡の幼稚園のことも考えたらんといかんし。」
「……そうですわね。やはり学習院が安心ですものね。……わたくしも、恭匡さんに、今までより頻繁に逢えるなら、うれしいわ。」
領子の言葉に、恭風は力なくうなずき……ため息をついた。