いつも、雨
その夜、領子はあまり眠れなかった。

要人は現れなかった。


……馬鹿ね……わたくし……何を期待していたのかしら……。


早朝、それ以上眠ることを諦めて、領子は庭を散歩した。

一度は枯れた草花が、再び植えられ、手入れされていることに気づいた。

そして、大好きな枝垂れ桜……。

おそらく根を守るためだろう。

柵を張り巡らせて、木に近づけないようになっていた。


大切にされていることがうれしくて……、胸がつまった。



……竹原……。

逢いたい……。

どうして、意地悪するの?

ただ、顔が見たいだけなのに……。

ううん、声も聞きたい……。

……触れたい……。





結局、葬儀の席でも、領子は要人の姿を見つけることはできなかった。

しかし、本堂に入りきらないほどに飾り付けられた花に、要人の名前を見つけた。

……いや、それより、関連会社の数の多さに驚いた。

いったいいくつの会社を併合したのだろう……。

姿を見せないくせに、これでもかとばかりにチカラを誇示する要人に、領子は憤りすら覚えた。



斎場には近親者と、静子の実家の寺の関係者だけが同行した。

橘の家族とは、ここで一旦別れた。

「こちらのことは構わず、お兄さんと恭匡くんについていてさしあげなさい。」

人格者の舅は、心からそう言ってくれていた。

「ありがとうございます。……兄は東京に戻る気になっているようですので……その相談もしたいと思います。」

「そうか。……うん。そのほうがいいね。京都には思い出が多すぎておつらいだろう。……力になれることがあるならいつでも相談にのるから。」

舅の心遣いに、領子は涙ぐんだ。



斎場でも、寺に場所を移しての法要でも、御膳をいただいた時も、領子は甥の恭匡のそばにいた。

次第に、恭匡は領子に心を開き、いろんな話をしてくれるようになった。

……恭匡の口から「竹原」の名前が出ると、領子は頬が緩まないように意識して表情を消した。


「絶対、秘密だよ。」

そう断って、恭匡は教えてくれた。


恭風は大書揮毫が苦手で、看板や奉納額の揮毫を頼まれたら、竹原に代筆してもらっているらしい。

「お兄さまったら……まだそんなことを……。」

昔から恭風は要人に宿題や課題を代行してもらっていたし、家の職であるはずの書さえも要人に助けてもらっていた。

でもさすがにイイ大人になって……要人だって仕事が忙しいだろうに、まだ手を煩わせているとは思いもよらなかった。
< 183 / 666 >

この作品をシェア

pagetop