いつも、雨
その夜、領子はあまり眠れなかった。
要人は現れなかった。
……馬鹿ね……わたくし……何を期待していたのかしら……。
早朝、それ以上眠ることを諦めて、領子は庭を散歩した。
一度は枯れた草花が、再び植えられ、手入れされていることに気づいた。
そして、大好きな枝垂れ桜……。
おそらく根を守るためだろう。
柵を張り巡らせて、木に近づけないようになっていた。
大切にされていることがうれしくて……、胸がつまった。
……竹原……。
逢いたい……。
どうして、意地悪するの?
ただ、顔が見たいだけなのに……。
ううん、声も聞きたい……。
……触れたい……。
結局、葬儀の席でも、領子は要人の姿を見つけることはできなかった。
しかし、本堂に入りきらないほどに飾り付けられた花に、要人の名前を見つけた。
……いや、それより、関連会社の数の多さに驚いた。
いったいいくつの会社を併合したのだろう……。
姿を見せないくせに、これでもかとばかりにチカラを誇示する要人に、領子は憤りすら覚えた。
斎場には近親者と、静子の実家の寺の関係者だけが同行した。
橘の家族とは、ここで一旦別れた。
「こちらのことは構わず、お兄さんと恭匡くんについていてさしあげなさい。」
人格者の舅は、心からそう言ってくれていた。
「ありがとうございます。……兄は東京に戻る気になっているようですので……その相談もしたいと思います。」
「そうか。……うん。そのほうがいいね。京都には思い出が多すぎておつらいだろう。……力になれることがあるならいつでも相談にのるから。」
舅の心遣いに、領子は涙ぐんだ。
斎場でも、寺に場所を移しての法要でも、御膳をいただいた時も、領子は甥の恭匡のそばにいた。
次第に、恭匡は領子に心を開き、いろんな話をしてくれるようになった。
……恭匡の口から「竹原」の名前が出ると、領子は頬が緩まないように意識して表情を消した。
「絶対、秘密だよ。」
そう断って、恭匡は教えてくれた。
恭風は大書揮毫が苦手で、看板や奉納額の揮毫を頼まれたら、竹原に代筆してもらっているらしい。
「お兄さまったら……まだそんなことを……。」
昔から恭風は要人に宿題や課題を代行してもらっていたし、家の職であるはずの書さえも要人に助けてもらっていた。
でもさすがにイイ大人になって……要人だって仕事が忙しいだろうに、まだ手を煩わせているとは思いもよらなかった。
要人は現れなかった。
……馬鹿ね……わたくし……何を期待していたのかしら……。
早朝、それ以上眠ることを諦めて、領子は庭を散歩した。
一度は枯れた草花が、再び植えられ、手入れされていることに気づいた。
そして、大好きな枝垂れ桜……。
おそらく根を守るためだろう。
柵を張り巡らせて、木に近づけないようになっていた。
大切にされていることがうれしくて……、胸がつまった。
……竹原……。
逢いたい……。
どうして、意地悪するの?
ただ、顔が見たいだけなのに……。
ううん、声も聞きたい……。
……触れたい……。
結局、葬儀の席でも、領子は要人の姿を見つけることはできなかった。
しかし、本堂に入りきらないほどに飾り付けられた花に、要人の名前を見つけた。
……いや、それより、関連会社の数の多さに驚いた。
いったいいくつの会社を併合したのだろう……。
姿を見せないくせに、これでもかとばかりにチカラを誇示する要人に、領子は憤りすら覚えた。
斎場には近親者と、静子の実家の寺の関係者だけが同行した。
橘の家族とは、ここで一旦別れた。
「こちらのことは構わず、お兄さんと恭匡くんについていてさしあげなさい。」
人格者の舅は、心からそう言ってくれていた。
「ありがとうございます。……兄は東京に戻る気になっているようですので……その相談もしたいと思います。」
「そうか。……うん。そのほうがいいね。京都には思い出が多すぎておつらいだろう。……力になれることがあるならいつでも相談にのるから。」
舅の心遣いに、領子は涙ぐんだ。
斎場でも、寺に場所を移しての法要でも、御膳をいただいた時も、領子は甥の恭匡のそばにいた。
次第に、恭匡は領子に心を開き、いろんな話をしてくれるようになった。
……恭匡の口から「竹原」の名前が出ると、領子は頬が緩まないように意識して表情を消した。
「絶対、秘密だよ。」
そう断って、恭匡は教えてくれた。
恭風は大書揮毫が苦手で、看板や奉納額の揮毫を頼まれたら、竹原に代筆してもらっているらしい。
「お兄さまったら……まだそんなことを……。」
昔から恭風は要人に宿題や課題を代行してもらっていたし、家の職であるはずの書さえも要人に助けてもらっていた。
でもさすがにイイ大人になって……要人だって仕事が忙しいだろうに、まだ手を煩わせているとは思いもよらなかった。