いつも、雨
「だから僕、早く上手にならないといけないんだ。本当は僕が書かないといけないんでしょ?」
まだ小さな恭匡(やすまさ)にも恭風(やすかぜ)の怠惰は目に余るのだろう。
領子(えりこ)は、恭匡を抱きしめて、利発そうな頭をそっと撫でた。
「恭匡さんは、優しいのね。でも焦らなくてもいいのよ。早く上手くなるより、ずっと書き続けることが大切なのよ。」
恭匡は不思議そうに領子を見つめて……それから、ぽそっと言った。
「……僕、優しくないよ。お母さまが死んでも……泣いてないもん。」
実の母の死に直面して泣いてない……。
なんて、かわいそうに……。
この子はいったい、どれほど淋しい想いをしてきたのだろう。
冷え切っていたのは夫婦仲だけじゃなかったの?
「ネグレクト、って言うそうや。」
帰りの車の中で、ぽつりと、兄の恭風がこぼした。
恭匡は、領子の膝を枕にして眠っていた。
育児放棄……ってこと?
領子は、首を傾げた。
恭風は、苦笑してうなずいた。
「まあ、わしらも、母親に育ててもろた意識は希薄やん?ばあやとねえやに育てられたようなもんやし……静子にもなんも期待してへんかってんけど……それにしても、手ぇだけやのうて、口も出さへんし、もっと言うたら、我が子やのに興味ないみたいやったわ。ベビーシッターに任せっきり。……もっと早く気づくべきやったなあ……。」
「……わたくしは……自分で育てますわ。」
領子の決意に、恭風が目を見張った。
「ほう!できたんか?」
慌てて、領子は手を振った。
「……そうか。まあ、焦らんでもかまへん。まだ若いんやから。」
領子は曖昧な表情でスルーした。
「東京の家、残しといてよかったわ。」
兄は本気で京都を出るつもりらしい。
「でもお兄さま……東京に戻ったら大書揮毫を押しつけるかたがいらっしゃらなくなりますね。」
多少の毒を含んで言ってみた。
でも恭風は悪びれもせず、歎いた。
「ほんまや……。汚れるから嫌やねん。領子にもこっそり習わせといたらよかった……。一子相伝とか、あほらしいなあ。まあ、ええわ。竹原かて、しょっちゅう行き来してるやろし。」
まだ小さな恭匡(やすまさ)にも恭風(やすかぜ)の怠惰は目に余るのだろう。
領子(えりこ)は、恭匡を抱きしめて、利発そうな頭をそっと撫でた。
「恭匡さんは、優しいのね。でも焦らなくてもいいのよ。早く上手くなるより、ずっと書き続けることが大切なのよ。」
恭匡は不思議そうに領子を見つめて……それから、ぽそっと言った。
「……僕、優しくないよ。お母さまが死んでも……泣いてないもん。」
実の母の死に直面して泣いてない……。
なんて、かわいそうに……。
この子はいったい、どれほど淋しい想いをしてきたのだろう。
冷え切っていたのは夫婦仲だけじゃなかったの?
「ネグレクト、って言うそうや。」
帰りの車の中で、ぽつりと、兄の恭風がこぼした。
恭匡は、領子の膝を枕にして眠っていた。
育児放棄……ってこと?
領子は、首を傾げた。
恭風は、苦笑してうなずいた。
「まあ、わしらも、母親に育ててもろた意識は希薄やん?ばあやとねえやに育てられたようなもんやし……静子にもなんも期待してへんかってんけど……それにしても、手ぇだけやのうて、口も出さへんし、もっと言うたら、我が子やのに興味ないみたいやったわ。ベビーシッターに任せっきり。……もっと早く気づくべきやったなあ……。」
「……わたくしは……自分で育てますわ。」
領子の決意に、恭風が目を見張った。
「ほう!できたんか?」
慌てて、領子は手を振った。
「……そうか。まあ、焦らんでもかまへん。まだ若いんやから。」
領子は曖昧な表情でスルーした。
「東京の家、残しといてよかったわ。」
兄は本気で京都を出るつもりらしい。
「でもお兄さま……東京に戻ったら大書揮毫を押しつけるかたがいらっしゃらなくなりますね。」
多少の毒を含んで言ってみた。
でも恭風は悪びれもせず、歎いた。
「ほんまや……。汚れるから嫌やねん。領子にもこっそり習わせといたらよかった……。一子相伝とか、あほらしいなあ。まあ、ええわ。竹原かて、しょっちゅう行き来してるやろし。」