いつも、雨
あとは……。


「あー、原くん。退座するから。車、回してくれる?」

『……わかりました。』

受話器の向こうで秘書の原がどんな顔をしてるか、要人には見えない。

……いや、もし目の前に居たとしても、今の要人には、原の感情は読めなかっただろう。

まるで少年のように、要人の胸は高鳴っていた。



要人は、宴席の主催者に辞去のあいさつをすると、うるさいお歴々にも挨拶して回った。

「身重の家内が少し体調を崩したようで。」

そんな言い訳を振りかざして、座敷を出た。



車に乗り込むと、今度は家で要人の帰りを待つ佐那子に電話をかけた。

あながち嘘ではなく、佐那子は少し体調を崩していた。

昨日ずっと恭匡につききっきりだったため、多少無理をしたのだろう。

大事をとって、今日の葬儀は欠席して家で休んでもらったのだが……。


『……はい。』

「……しんどそうやな。大丈夫?病院行ったほうがいいんじゃないか?」

声のトーンの低さに、心配になった。


『要人さん。……ごめんなさい。貧血かしら。立ちくらみが酷くて……。』

「いや。謝らんでも。……天花寺家のことで、君にまで迷惑をかけて、悪かった。」

『あら。迷惑だなんて。……あなたの恩人は私の恩人ですから。私より要人さんのほうが、心配。夕べ本堂で寝ずの番をされたのでしょう?今夜は早めにおやすみになったほうが。』


チクリと胸が痛んだ。

「……そうしたいのはやまやまなんだが……この後、天花寺家をお伺いしようと思ってね。……帰る時間が読めないから……先に寝ていてくれないか?」

『そう。……そうね。昨日、天花寺さま、ちょっと……怒ってらっしゃったみたい。……恭匡さまにうかがったんだけど、あなたの結婚の時には自分が仲人をするものだと自負してらっしゃったそうよ。……そのために離婚しなかったって……。』


……まあ……そうだろうな。


恭風には、昨日初めて結婚したことを告げた。

佐那子の前では、

「そうか。おめでとうさん。」

と、しか恭風は言わなかった。
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