いつも、雨
しかし、要人にはすっかり、おかんむり。


怒りというより、拗ねてるんだろうなあ。


昨日も今日も、なるべく表に出ないよう……領子にも恭風にも会わないよう、裏方で采配を振るった。


「……君にも気を遣わせてしもて、悪かったね。落ち着いたら、改めて挨拶に行こう。……恭風さまはお優しいかただから、すぐに機嫌を直してくださると思うよ。」

『はい。……天花寺さまによろしくお伝えください。おやすみなさい。』

「ありがとう。おやすみ。……しんどくなったら、すぐ病院行きや。」


電話を切った後、要人は天を仰いで息をついた。


……嘘は……ひとつもつかなかったな……。



「天花寺家、ですね。」

助手席の原が、わざわざそう言った。
 
行き先の確認ではなく、訪ねる対象を誤魔化したことを指摘しているのだろう。


要人は悪びれずに、言った。

「ああ。恭風さまにご挨拶してから、領子さまを祇園祭にご案内するつもりだ。」


「……かしこまりました。」


ついてこなくていいぞ。

……とは、言わなかった。


空気を読めよ、と心の中で付け加えた。




原は、井上から既に釘を指されていた。

いや……本当は、要人の秘書になったとき、既に勘付いていた。

要人は、天花寺家には折々の出費を惜しまなかったが、橘家に嫁いだ領子に対しては度を過ぎていた。


財産分与のつもりなのか?

婚礼時の花嫁道具を揃えたのも要人だったし、その後も、身の回りの装飾品は言うに及ばず、季節や流行に適した贈り物を続けている。
 
よほど世話になったか、不憫なのか……。

以前から興味はあったが、昨日、京都駅で迎えた時に確信した。


社長はこの女に惚れ切っている、と。



舌打ちしたい気持ちを隠して業務を遂行する原を、運転手の荒井は楽しそうに眺めていた。

おもしろくなってきたぞ……、と。




天花寺家に到着したのは、21時。

かつてのように忍び込んで領子を驚かすのも楽しいが……いつまでもそんなことをしてられまい。

正面突破だ。


とりあえず玄関の呼び鈴を押した。

……静かだ。
< 188 / 666 >

この作品をシェア

pagetop